キャリア講義

抽象度の高い「Will」は自分のキャリアの邪魔をする|キャリアアップのためには「Can」を磨いて100人に1人の武器とせよ

中島直4

目次

  1. 中島 直樹 さん(unimuni(ユニムニ)・代表取締役)
  2. 与えられた環境下で「できること」を自分だけの武器にしていこう
  3. そのやりたいことはどれだけ具体的か? 抽象度の高いWillで将来を決めるな
  4. そのやりたいことはどれだけ具体的か? 抽象度の高いWillで将来を決めるな

中島 直樹 さん(unimuni(ユニムニ)・代表取締役)

Naoki Nakajima●上智大学卒。アパレル系専門商社を経て、ネオキャリア就職エージェント事業部に。年間売上1位を獲得し、3年間で2000名を超える学生の就職を支援する。その後転職した就活キャリアではマネージャーとして赤字だった紹介事業の再建に奔走。同時にフリーランスとしても、エージェントのコンサルティングや専門学校のキャリア支援もおこなう

Q.中島さんは現在までどのような道を歩んでこられたのでしょうか。

アパレル系の専門商社からファーストキャリアをスタートさせました。もともとアパレルをやりたいと強く思っていましたし、第一志望群の企業ではあったのですが、1年弱でそこを辞めています。

入社してから自分のやりたい仕事と実際に任された仕事とにギャップを感じるようになったのです。まあ、今考えるとそれは当然のことで、入社したばかりの新人がばりばり営業に参加できるわけがありませんよね。でも当時の私はそれに気づかず、ただただフラストレーションを抱えていました。

Q.社会人のスタートからキャリアに対して非常に意欲的だったのですね。

はい、というのも、当時から「25歳までにアパレル業で起業したい」という漠然とした目標があったからです。そして今のままではその状態に到達しないと焦りを感じていました。

でも、このフラストレーションが溜まったタイミングで一度この「起業」についても考え直してみたのです。今の自分は「起業が目的になっていないか」と。起業とは、自分のやりたいことをやり遂げるためのひとつの手段でしかない、起業して終わりではない。だから起業は真にやりたいことが見つかったときでいい。

そう思い、転職活動をする中で人材業界との出会いがあって今に至ります。

Q.今こうして起業されたということは、やりたいことが人材業界で見つかったということですよね。そう感じられたきっかけやターニングポイントなどは何だったのでしょうか。

初めに人材会社に入ったときに、ひとつだけ自分自身と約束したことがあります。「一番になるまで辞めない」ということ。初めのアパレル系専門商社では「やりたいこと」ばかりで動いてきましたが、ここでは「やらなければならないこと」に振り切りました。その甲斐もあって、実際2年で新卒紹介のエージェント部門で売上No.1になれたのです。

成果が出て、立場も変わると、視座が変わりました。もとから人をサポートしたり成長を支援したりすることは「嫌いではない」程度だったのですが、それが実は得意で「自分に合っている」とはっきりと認識するようになりました。自分が生きる道は、人をサポートし支援するこの道なのだろうと。長期的にやれそうなことが見つかった気がしました。

与えられた環境下で「できること」を自分だけの武器にしていこう

Q.ではその経験も織り込みつつ、新卒一年目をこれから迎える就活生に、働くうえで持っておくべき心構えについて教えてください。

「やりたいこと」、つまり「Will」を主体に人生を考えるのはうまくいかないケースが多いということですね。

私は服が好きなので、洋服を例にお話しします。たとえば一生懸命バイトをして、欲しかったジャケットをひとつ買ったとします。すると、なんだかそのジャケットに合うパンツも欲しくなりませんか。パンツも買ってしまえば、シャツも欲しい靴も欲しいと、やっとの思いでジャケットを買えた気持ちは忘れてしまいます。

これをキャリアに置き換えると、仮にやりたいことができていたとしても、本人はやれている実感がないと感じるときがあるということです。次はこうしたい、もっとこうなりたいとどんどん欲が出てくること自体はいいことなのですが、欲とのギャップに自分の心が疲弊してしまう。それに気づかずに環境のせいにして退職してしまうこともあるでしょう。

Q.それを防ぐためにはどうすれば良いのでしょうか。

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「Mustの中でCanを磨くこと」、20代前半ではこれが一番大切だと思っています。会社の決められた環境や条件(Must)の中で、自分の得意なこと(Can)を磨いていき、100人、1,000人に1人の武器にすることです

そうすることで、視座が変わります。見える景色が変わるのです。そうなったときに新しい「Will」、やりたいことが生まれるはず。その「Will」を信じて進めばいいと思います。

Q.「視座が変わる」とは具体的にどういうことでしょうか。

コンビニでのアルバイトにたとえて考えてみましょうか。

アルバイトを始めた時、最初は与えられた目の前のレジ作業だけで手一杯ですよね。それが少し慣れてくると「空いている時間で品出ししなきゃ」「床掃除しなきゃ」少し違うところも気づくようになるでしょう。

レジ作業中も、「このお客さんは急いでいそう」「常連さんだからまたアレを注文するな」と、今までとは少し違うところに気が回るようになりますよね。そのうち後輩の指導や、売上のことを予測した発注などにも携わるようになるはず。目の前のことだけしか見られていなかったのに、お店全体にまで目が行くようになったとき、違う世界が見えてきませんでしたか

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社会人として働くのもそれと同じことです。視座が変わったときに生まれた「やりたいこと」に挑戦すればいいと思っています。そのときなら、やりたいことが成功できる可能性が高くなっていると思うので。

Q.キャリア形成における優先順位としては「Must⇒Can⇒Will」といった形ですね。

そうですね。よく会社説明会などで「Willが叶った!」という文句を見かけることもあるかと思いますが、これは多くの場合は結果論だと思っています。

仮にWillで企業選びをして良いキャリアを進めたとしても、それは偶然Mustの中にWillが含まれていただけ。もしくはWillの大きさや抽象度の問題ですね。

Will、つまりやりたいことは具体的であればあるほどMustに近いと思います。私のように「起業したい」という抽象度の高いWillでキャリアを追うことは危険です。そして新卒の人こそこのWillの抽象度が高いのです。なぜなら働いたことがないから。

Q.もう少し詳しく説明していただきたいです。

私はアパレル系の企業に就職しましたが、「アパレル」と一口に言っても実は製造・販売・流通などさまざまな部門があります。しかしそのどれもが「アパレル」ではあるのです。

私は洋服が大好きで、洋服の知識なら業界の人にも巻けない自信がありましたが、入社後その自信はあっさり崩れました。たとえば、今着ているTシャツの糸は何番手で・どの繊維でできているかなど、アパレル企画の現場で当たり前に話される話題にはまったくついていけませんでした。新卒の頃の私は、Willが抽象的すぎて真に自分のやりたいことに気づけていなかったのです。

そのやりたいことはどれだけ具体的か? 抽象度の高いWillで将来を決めるな

Q.ではここまでのお話を踏まえて、学生がファーストキャリアを選ぶ際もっとも重要にしておくべき事項は何でしょうか。

自分のCan、つまり得意なことやできることに目を向けることです。私の場合だと人の支援やサポートが得意だったので、そういった仕事に最初から就いておけば良かったなと思っています。あとはたとえば前に出たり、チームをまとめて引っ張っていくこと、人に働きかけることなど。「できること」といってもこの程度でかまいません。

学生は「やりたいこと」で企業選びをしようとしがちですが、無理にやりたいことを探したりそれで企業を選ぼうとしなくて良いです。そもそもやりたいことがないのは悪いことではないですし。

皆、他人のいいところばかりを見てしまうので、やりたいことがない人こそ「自分なんて……」と自己肯定感が下がってしまっている気がしています。

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Q.逆に確固たる「やりたいこと」がある学生はどういう選択をしたら良いのでしょうか?

早いうちから「やりたいこと」があるのは素晴らしいことです。確固たる意志があるなら、逆に思い切ってやりたいことに飛び込んでみるべきです。なぜならやらないほうが後悔するから。

やってみて、そのあとどうするか考えれば良いと思います。やりたいことでの企業やキャリア選びがすべて失敗するとは限りませんから。また仮に私のように失敗したとしても、長い人生で見れば「やりたいことに挑戦できた」のは幸せだったはず。挑戦は充実感を生みますし、それが結果としてうまくいかなかっただけで、うまくいく可能性だってあったのですから

挑戦する権利があるのに挑戦しないのはもったいないです。具体的な道のりが見えているのであれば、ぜひその「やりたいこと」を突き詰めてほしいですね。単純に、私のような「起業したい」または「お金持ちになりたい」などの抽象度の「やりたいこと」で動くのは少し危険かなと思っているだけです。

Q.たしかに、人の意見に流されて挑戦をやめてしまうのはもったいないと感じます。

特に20代前半なんて、「自分のため」だけに動ける時間です。多くの人は30代を過ぎた頃から家庭のことや親のことなど、考えなければならないことがどうしても増えてきます。20代前半はそういう意味で自分のために自分のお金や時間といったリソースを使っても問題ないでしょう。そんな貴重な時期だからこそ、ぜひ自分のやりたいことに積極的に挑戦すべきだとも思いますね。

「『やりたいこと』でキャリアを決めるな」と言っているのではありません。「『抽象度の高いやりたいこと』が危険」なんだと言っているのです。

そのやりたいことはどれだけ具体的か? 抽象度の高いWillで将来を決めるな

Q.ほかにキャリアアップの観点からぜひ学生にもっておいてほしいことはありますか?

近年はひとつの会社でキャリアを終えるというのが逆に珍しくなってきましたから、キャリアアップのために転職をするのもアリだと思います。

とはいえ転職にも種類があって、今話したような何かを成し遂げて次のステージに進むためのポジティブな転職。そして現状がとりあえず嫌でそこから逃げるための転職。これは私の一度目の転職ですね(笑)。圧倒的に後者の転職者のほうが多く、そしてその人たちの理由の8割が「やりたいことがやれてないから」。

それって結局、自分のWillが自分のキャリアを邪魔しているのですよね。Willって、キャリアを描く指針にもなり得ますがキャリアを邪魔するものともなり得る、いわば諸刃の剣なのですよ

自分なりの目標があって、それを達成するのが社外なのか社内なのかというだけです。プロ野球でいうならば、弱小チームの4番を背負いチームの顔としてずっとやっていくのか・強豪チームやメジャー移籍にチャレンジしてみるのかと同じです。自分の目標はチーム内で達成できるのか、それともチーム外でないと達成できないのか。仕事もそれと同じなのですよ。

Q.自分なりの目標を設定してそれを達成していくことがキャリアを前進させていくことだと思いますが、その目標の見つけ方や作り方についてアドバイスをもらいたいです。

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そもそも目標って無理に見つけるものではなく、成功体験の積み重ねからしか生まれてこないと思っています

たとえば、地区でベスト16に入ったこともないのにいきなり「今年の目標は甲子園優勝」と言われても現実味が沸かずわからないじゃないですか。でも、一度地区ベスト16に入れれば、「ベスト16になるにはここまでの努力が必要なのか、じゃあベスト8になるには?」と、ベスト8に入るための方法・地区優勝する方法・そしてゆくゆくは甲子園で優勝する方法が見えてきませんか。それが目標だと思います。

要はまずは成功するまで物事をとことんやってみること。その姿を見てくれている人は必ずどこかにいて、新しいチャンスをくれたりします。そうすることで自分の自信も生まれますし、ステージが上がればおのずと自分の視座も変わりますから。

Q.学生へ、充実したキャリアを歩むためのメッセージをお願いします。

今はこのご時世、やりたいことが思うようにできなかった人も多いでしょう。つまり「やりたいことが見つからない」という人も多いはず。経験値が少ないのだからそれは当然のことです。

だからその分自分の「得意なこと」に注目しましょう。そしてそれを会社に求められている「Must」の中で磨くことが大切です。もともと無い「Will」はどれだけ自己分析しても見つかりませんから。やりたいことはこれからいくらでも見つけることができます。Canを磨いて自分だけの武器にして、そこからWillを見つけて自分の夢や目指すキャリアを具体的にしていきましょう

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