社会人インタビュー「元東大卒キャリア官僚に聞いた官僚という仕事」

【官僚】
この職業にどんなイメージを持っていますか?
どんな仕事をしているか理解していますか?

こんにちは。就活の未来ライターの赤塩です。
今回はキャリア官僚を目指している大学生向けにキャリア官僚の先輩である宇佐美典也さんにインタビューしてきました。
キャリア官僚を目指している方だけでなく、官僚という仕事について知らない大学生にも読んで欲しい記事になっています。
ぜひ、この記事を通して多くの人に「官僚」という仕事を理解してもえればと思います。

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宇佐美さんは暁星高校から東京大学経済学部に入学し、
国家公務員一種の試験に合格の末、経済産業省に入省。
これまで誰もが羨む”王道”を歩んできた一人でした。
しかし、先月そんな王道を捨てて、経済産業省を去りました。
約8年間に渡ってキャリア官僚として日本のために奔走してきた宇佐美さんは何を感じ、
そしてなぜ辞めることを決めたのでしょうか。

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就職活動の時はお金を儲けることこそが素晴らしいと思ったこともあった。

赤塩:「宇佐美さんは大学生のとき、どんな学生でしたか?」

宇佐美:「学生時代は結構プラプラしてたよ。笑
なんとなく大学には通ってたけど、そんなに勉強もしてなかったし、
自分でサークル作ったのが一番頑張ったことってくらいの普通の学生だったね。
特に何をしたってわけではないような大学生活だった。」

赤塩:「僕の印象では宇佐美さんはすごい活発な人だと思っていたのでなんか意外ですね。
では、宇佐美さんが就職活動をした当時の就職活動はどうでしたか?」

宇佐美:「僕が就職活動をした2004年はホリエモンとか村上ファンドの村上さんの全盛期。
政治は小泉さんが総理大臣になっていて『官から民へ』をスローガンに急激な改革を押し進めていた。
そういう人が時代を引っ張っていたから世の中は今よりも「お金を儲けること」が素晴らしいという風潮があった。
自分自身も、就職活動を始めた当初は「大きなお金を生み出している企業はいい企業だ」という暗黙の軸を持って活動していた気がする。
経済学部で統計学を選考していたこともあって、
自然とその分野と相性のいいトレーダーや投資銀行といった金融業界の高給職を志望していたこともあったし。
特に外資系金融には憧れをもっていたよ。
でも、何社か回る中で「仕事は儲けることが全てだ」という考え方にだんだん反発を覚えるようになっちゃってさ。
そのうち金融業界は自分には合わないと判断してファーストキャリアでは
「直接的に人の役に立つことができる仕事」を選択することを決めて、
民間の保険会社や通信会社に志望を変えることにした。その中の1つとして官庁という選択肢があった。

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官僚になろうと思ったのはふとしたきっかけだった。

赤塩:「もともと官僚になろうと思っていたわけではないのですか?」

宇佐美さん:「正直に言ってしまえば、同じクラスにいた、かわいい女の子から
「あなたどうせ何も考えてないんだから、一緒に公務員予備校でも行ってみない?」と誘われたことがきっかけなんだよね。笑
意外でしょ? ただもとから教育に対しては問題意識を持っていたから文部科学省に行ってみたいとは思っていたんだ。
当時は経済産業省はあまり考えていなかった。

赤塩:「なぜ文部科学省ではなく経済産業省に入省することにしたのですか?」

宇佐美さん:「一言で言えば経済産業省の方が働きやすかったからかな。
文部科学省の人たちと話す中で感じたことなんだけど、教育っていう分野は明確な「答え」が無い一方で、
大多数の国民が強いこだわりを持っているから、その意見をすりあわせるための政治的調整が主要業務になってしまうところがあるんだ。
中にいる人たちもそういう背景からか、自分たちの教育に対する思いをあえて言わないところがあって試行錯誤していて、
歯切れが悪いところがあった。それが積極的だったり社交的だったりする自分の性格には合わないって感じたんだ。
 一方経済産業省はその対極で担当している業界も幅広いし、
経済分野の専門的な仕事が多いことあって職員が伸び伸びと意見をぶつけ合うことが許される土壌があった。
そんな訳で経済産業省が一番自分の性格に合いそうと感じて「ここなら面白そうな仕事ができそうだ」って感じて入省を決めたんだ。
「経済産業省に入ってこれがしたい!!」っていう具体的な問題があったわけではないんだよね。

日本のために働きたいという強い気持ちがあった

赤塩:「官僚になることって日本という国のために働くことだと思うのですがそういう気持ちはありましたか?」

宇佐美:「それは強く思っていたよ。日本に対するこだわりは今でも人一倍もっているつもりだよ。
そもそも国家というものは、みんながそこに強いこだわりを持つからこそ存在し得るバーチャルな存在なんだよね。
そういう意味じゃ日本政府を支える官僚に対して日本って国に対するこだわりなり愛国心なりが求められるのは当たり前のことだと思う。
一方で、グローバル化が進んだり地域社会が崩壊したりする中で人間同士支え合って社会を作っているっていう実感が薄れてきて、
「国家なんてなくなっていいじゃん」って思う人も増えてきていると思うんだよね。
そういう意味では今は日本っていう国家そのものが崩れかけてきている時代だと思ってる。
その中で日本という社会を支える官僚はかなり厳しい仕事になりつつあると感じるな〜。
社会保障制度の改革だとかTPPとっかいった問題っていうのはその象徴だよね。
それに限らず今国家制度自体ひずみが噴出している状況だから、官僚になる人にとって「国を想う強さ」は大切な資質になるんだと思う。
一番大切な資質なのかもしれない。日本という国への帰属意識があって、この国に支えられてるし、
支えたいと想っている人じゃないとできない仕事。
もちろん、仕事として割り切っている人もいると思うけど、それじゃたいした仕事はできないよね。

官僚の仕事に自由はあるといえばあるし、ないと言えばない。

赤塩:「では、世間の人って官僚がどういった仕事をしているのかイメージしづらいと思うので
宇佐美さんが8年間やってきた仕事について教えてもらってもいいですか?」

宇佐美:「専門的な話をするのもなんだから簡単に話すね。笑
入省して4,5年は税制だとか法律だとか制度的な改正を主な仕事にしていたんだ。
具体的には企業立地に関する規制の緩和・優遇税制措置の創設、農業分野に企業が参入しやすくするための制度改正、
知的財産制度の見直し、なんかを担当してたよ。
後半の3年半は国と企業で産学官連携した研究開発プロジェクトを作る仕事をしてたんだ。
半導体の製造装置とか不揮発メモリとか植物工場とかデータ解析ソフトとか、電機・IT系に近い分野を主に担当してたよ。笑

赤塩:「難しいですね…。笑
官僚っていうと縛りがすごく強いイメージがあるのですが仕事上で自分の意志を反映させたりする自由度はどれくらいありましたか?」

宇佐美:「その答えは「自由度」っていう言葉の捉え方にもよるから難しいよね。
官僚の仕事って、政治家の出した大きな方針に則って、色々な関係政治・業界団体の間を取り持ちつつ詳細な具体案を考えていくって仕事が多い。
だから自分で具体的なソリューションを考えて実践できると思えば自由度は高いと言えるよね。
でも、周りの政治勢力との関係上勝手なことはできないから自由度は無いと言えば無いよね。
与えられて答えを粛々とこなす仕事をするっていうより、
与えられた社会問題に対してなんとかみんなの納得する答えをチームで作り出して行くって感じ。
自由度はあると言えばあるし、ないと言えばない。本当にそんな感じ。

赤塩:「政治家や、企業などが納得する答えを導きだすのですか?官僚ってイメージと違って裏方な仕事をしているのですね。」

宇佐美:「誤解を恐れずに言えば官僚の仕事は黒子に徹する仕事。常に縁の下の力持ちでいなければいけない。
中央官庁はあまり表に出てこないし国民生活に直接に接する機会は少ないから、
世の中の普通の人は官庁が何をしているかもそれがどういう形で役立っているか、よくも悪くもわからないよね。
例えば法律を改正したら政治家は「我が党の政策のおかげです」というし、
官民連携プロジェクトが成功しても民間企業は「我が社の技術力の成果です」っていうからね。
逆に官庁が「自分たちが頑張りました!」っていうとバッシングにあっちゃうから、成果を人に胸を張って誇れない仕事なんだよね。
こっそり裏のスナックで「あのプロジェクトは俺達がいなければ成り立たなかったんだぜ」っていうのがせいぜいかな。
世間の一般の人には官僚という存在を理解してもらうことは本当に難しい。」

赤塩:「せっかく仕事頑張ったのに最後の部分で我慢しなければいけないのですか?
僕だったら不満爆発してしまいそうなのですが…ジレンマを抱えることはなかったのですか?」

宇佐美:「さっきも言ったけど官僚は人に理解してもらえる仕事ではない」っていう割り切りは必要。
自分たちがどんなに頑張っても、結果を出しても世間には決して理解してもらえない。
それでも仕事のやりがいと理解してくれる周りのごく少ない人の評価で満足できるっていうタイプの人じゃないと辛い仕事。
ジレンマを抱えている人はもちろんいる。僕もそうだったし。人によってはそれが仕事への諦めだったり、
民間企業に変に権力を誇示する方向に向いたりする。」

転職活動しても官僚の仕事以上にやりがいを感じられる仕事は見つからなかった。

赤塩:「やりがいという言葉がありましたがUさんはどんなときに官僚としてやりがいを感じましたか?」

宇佐美:「振り返ってみると大きくは2回くらいあるかな。
一つは農家と企業がうまく連携して新しいビジネスに取り組む仕組みを作ったこと。
農業界と産業界は常に対立関係にあるからそのギャップを埋めるのはすごく苦労したし、
政治的圧力も強くて何度もプロジェクトは潰れされそうになった。
でも、あきらめずに粘り強く交渉した結果win-winの仕組みを作ることができて、
経済産業省と農林水産省の間でも「お互いが協力しましょう」という運びになったときは本当に嬉しかった。

もう一つはみんながやったほうがいいと思っているのに色々と調整がめんどくさがってやらなかった企業の立地補助・減税制度の見直しをした時かな。
半年くらいは休日返上で泊まり込みもある激務だったんだけど、「やるべきことをやった」っていう満足感は大きかったな〜。
他にも中小企業やベンチャー企業や大学教授と一緒に構想を作ってプロジェクトを作ることが何度かあったんだけれど、
そういう夢を持った人をサポートするのはとても楽しかったし、やりがいを感じた。
逆に大企業との仕事だと電機分野で国際的な研究開発プロジェクトを構築して、
合弁会社なんかも作ったことがあったんだけど、やりがいはあるけれど毎日胃痛が続いた苦行みたいな仕事だったな〜。
共通することは社会のうまくいってない関係や仕組みを、役所が介在することで変えていく種を植えることができたって言うことかな。
これは官僚全体じゃなくて経済産業省特有のやりがいなのかもしれないけどね。

赤塩:「話を聞いてるだけでとてもワクワクしてくるお仕事ですね!ではそんなお仕事をなぜ辞めようと思ったのですか?」

宇佐美:「辞めると決めたのにはいろいろ理由があるけど、一番大きいのは僕は黒子でいなければいけないのに目立ちすぎたってことかな。
週刊誌に載ったりとか。笑
(宇佐美さんは「三十路の元官僚ブログ」で給料を公開して話題になったことがある)
そもそも、そう言う風に目立とうと思った原因を考えてみると、
仕事で感じていたジレンマが自分の中で消化できる範囲を超えてしまったってことがあったんだ。
官僚に対しての批判や誤解が行き過ぎてしまっていておかしな政策や制度改革が罷り通っているけれど、
それをおかしいと世の中に対して打ち出した時点で黒子でなくなるわけだから、
そう言ってしまったら自分は官僚ではいれなくなる。こんなジレンマを数年間抱えていた。
もちろん官僚組織や政策に問題があるのは確かだけど、全部が悪ってなわけでもない。
問題の本質は社会の根深いところにあるのに、
表面的に見えるおかしなところだけを議論して官僚をスケープゴートにする政治家やマスコミの姿勢にはずっと疑問を持ち続けていた。
官僚が大きな権力を持っているのは確かなんだけど、選挙で選ばれたわけではないから、
政治的権力を持つ関係する業界や政治団体に配慮して保守的な主張をしがちなんだよね。
本人の考えではなくても、立場上仕方なく言わなきゃいけないことも多い。
それを「あの省庁の○○課は悪党だ」なんて言われると、やりきれなくなっちゃうよね。
だから、もう我慢出来なくて言っちゃって辞めて行く人が多い。僕もその1人。

赤塩:「確かに、最近は官僚という存在を理解していないのに批判してしまっている気がします。
そういった厳しい状況の中で仕事に対してのモチベーションはどのように思っていましたか?」

宇佐美:「仕事のモチベーションの源泉とはお金だけではないと思うんだ。
官僚だったら、国を代表して交渉に立てることや、「国のために働いてくれてありがとう」とか
「遅くまで国のために働いて大変だね」っていう感謝の言葉をもらえることは十分なモチベーションの源泉になる。
それは人間として自然なことだよね。
ただ、最近はそういった感謝の言葉はなくなってきて、
批判されることがあってもほめられることがない職業になってしまって自己満足で割り切るしかなかった。
だからモチベーションの維持は本当に難しかった。
人間のくずのように毎日テレビや新聞で批判されて、給料も削減されて、褒められることも無く、
毎晩世があけるまで延々と残業している、そんな仕事やりたいと普通は思えないよね。
本当に大事な仕事なんだけどね。。。」

官僚になるためには日本という国を支えたいと思っていることが最も大切

赤塩:「官僚になるためにもハードルは高いですがなったあとは能力的にも、そして特に精神的に大変そうですね。
ではそういった要素を含め、官僚に向いている人はどんな人ですか?」

宇佐美:「まず絶対的に必要なのは日本という国を支えたいと思っている人。官僚としてとても大切な部分。
次に少し語弊があるかもしれないけど「なにかしたい!」という強い想いを持っていない人。
いろいろな立場の人がいる中で全員がある程度納得できて、なんとか合意できるラインを探して行くことが官僚の仕事だから、
バランス感覚がとても大切なんだよね。そういう意味では何か強いこだわりがなくて、
冷静に状況を見られる人の方がうまく仕事ができることが多い。
サッカーでいったら日本代表の遠藤選手みたいな全体のバランスを見て動くボランチのポジションに入るような人が向いている。
元日本代表監督のオシム監督の言葉を借りれば「水を運ぶ人」そんな人が官僚に向いている。」

官僚を目指している学生に3つの問い

赤塩:「では、今、官僚を目指して勉強している大学生に何かアドバイスはありますか?」

宇佐美:「改めてもう一度自分に問いかけて欲しい質問が3つある。

1、君は本当に主役にならなくてもいいのですか?

2、人に評価されなくても納得出来ますか?

3、自分がやりたいことはできないかもしれない、それでも意味のあることはできる、それで納得出来ますか?

この3つの質問を納得出来るか割り切ることができるのであれば官僚としての生活を楽しめるのではないかと思う。
官僚は若いうちからやりがいがある大きな仕事ができるし、裁量権も結構ある。
実は数年前に一度転職活動をしたことがあるんだけど、
その時感じたのは待遇としては官僚を上回る仕事はたくさんあったけれど
”やりがい”という部分で官僚を上回る仕事は1つもなかったんだよね。あくまで個人的な感想だけれど。

就活生へメッセージ

赤塩:「最後にこれから就職活動をする就活生に何かメッセージをよろしくお願いします」

宇佐美:「就職活動を始めると「会社に入って何をしたいかはっきり言わなければならない」っていう風潮があるけど22、23歳でそんなこと言えるほうが変だと思う。今の自分だって迷いながら毎日を過ごしているくらいだしね。
今はどうなるか本当にわからない時代だから、就職だけが全てだと思わないほうがいいと思う。
大企業に就職したってリストラの嵐が吹き荒れている時代だしね。
だから「会社に雇ってもらう」という感覚よりも、
自分の強みを生かせばどういう風に面接を受ける会社に貢献できるのか、ってことと、
この会社に入れば自分はどういう風に成長できるのか、ってことを考えたほうがいいと思う。
自分は自分、会社は会社、で対等に向き合ってwin-winの関係を築けば、
例え会社が潰れても裸の自分に戻っても生きていけるはずだからね。

赤塩「今日は貴重なお話ありがとうございました。
宇佐美さんのインタビューを見て多くの大学生が日本という国について考え、動き出してくれると思います!」

*宇佐美さんからのお知らせ
9月下旬に「30歳キャリア官僚が最後にどうしても伝えたいこと」を出版します。
ここでは官僚批判からは知ることのできない、僕ら官僚の本当の想いを書いています。
官僚になろうと思っている学生、公務員になろうと思っている学生にはぜひ手に取って欲しい一冊です!
//goo.gl/lOrYD

監修者プロフィール

ソーシャルリクルーティングのプロフィール画像
吉川 智也(よしかわ・ともや)
1988年北海道生まれ。大学卒業後、2010年に株式会社マイナビに入社、2011年に新人賞金賞を受賞。IT・小売・外食などサービス業界の企業を中心に、300社以上の採用活動を支援してきた経験をもとに、各大学のエントリーシート・履歴書などの就活講座の講師も務め、年間3,000名以上に対して講演を実施。
現在はポート株式会社で、キャリアアドバイザーグループの責任者として、年間約5,000名の学生の就活相談に乗り、さまざまな企業への内定に導いている。

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