キャリア講義
これまでの学びにプライドと自己肯定感を持て|心・技・体のみつどもえに即した企業選びを
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目次
長井 裕樹さん(テックオーシャン・代表取締役)
Yuki Nagai●京都大学大学院卒、三菱化学入社。その後、理系学生が自身の学びや技術を社会に活かせていないことに問題意識を持ち、大学院生採用支援をメインでおこなうベンチャー企業にジョインし取締役に就任。年間約1万人、累計4万人以上の理工系大学院生に就活指導をおこなう。その後一般社団法人知的人材連携センターを創設、転社を経て、2018年株式会社テックオーシャンを創設
Q.長井さんはこれまでどのようなキャリアを歩んでこられたのでしょうか。
小学生の頃は図書館などで本を読んで過ごすことが多く、漫画の偉人伝を読み漁っていました。その影響で「将来は自分も自分の命を使って、世の中の役に立ちたい」とぼんやりと考えており、大学時代は植物のバイオテクノロジーに関する研究をしていました。
そこからファーストキャリアとして三菱化学株式会社を選択。私自身、大学での学びや技術をうまく社会に還元できていないことにギャップを感じる中で、現在の理系学生も自身の能力をきちんと発揮できる就活ができていないことを知りました。そこで、日本の知的人材が社会で活躍できるためのインフラが必要と考え、人材業界、就職支援事業へ足を踏み入れることを決めました。
いくつかの転社、社団法人の創設を経て、42歳の頃、理系学生にフォーカスしたこの「テックオーシャン」を起こしました。
Q.起業に至るまでの道のりの中で、分岐点となった瞬間などはありますか?
実は、起業を決意するおよそ2年ほど前に大病を患い入院をしました。死と隣り合わせの状況の中で、「3ヶ月後に死ぬとしたら自分は何をするだろうか」と考えるようになりました。
そのときに真っ先に浮かんだのが、自分の子どもたち、若者たちだったのです。自分は死ぬとしても残る人にはできるだけ笑顔でいてもらえる幸せな社会にしたいと感じました。若い世代が自身の学びを社会につなげられる、自分の役割を認識し活躍できる、そんな未来に貢献したいと思うようになりました。
そのような目的をかなえるため、自身のやるべきことを明確にさせたことがこのテックオーシャンの立ち上げにつながる大きなターニングポイントでした。
Q.ということは長井さんが考えておられる「就活市場における課題」はやはり「学生の学びが社会につなげられていないこと」でしょうか。
そうですね。学びを活かせる土壌がない、活かす方法に気付けていないなど、理由はさまざまありますが、特に理系学生はせっかく4年、6年かけて学んだことや身に付けた技術を世の中につなげられていない人が多すぎると思います。それでは「自分の学びは今後世に出たときに役に立つのだろうか」と感じてしまう学生がいるのも無理はありません。
あらゆる人がこれまでの学びに対しプライドと自己肯定感を持ってほしい、社会において自分のやるべきことや役割を認識してほしい、そして自身の学びを社会につなげてほしい。そうすれば、自分自身の存在意義も感じられますし、社会もその学びや技術をもとに潤っていくはずです。学生自身はもちろん、さまざまな人が今よりもっと豊かで楽しい日々を送れるようになると思っています。
始まりは「なんとなく」でOK! そこから企業選びの条件を見つけていこう
Q.ここからは学生にフォーカスしてお伺いしていきます。学生が企業選びをする際に、どのような視点で企業選びをすることが大切だと考えているでしょうか?
明確な理由や根拠はなくてもかまいません。「なんとなく」でいいので、自分が興味を持てた企業の話を聞いてみることから始めてみると良いと思います。さまざまな企業の話を聞く中で、またなんとなく「ここはおもしろいな」「ここは違うかも」と、自分の中で「良い」「悪い」が分けられてくるでしょう。
「良い」「悪い」がわかってきたら、次は「そう感じるのはなぜか」考えてみてください。「○○社はここが気になる」「△△社はここが良いのかも」と、自分がそう感じる理由を理解することで、自分の価値観や大切にしたいこと、企業選びの軸などの条件が見えてくるはずです。その条件をもとに業界や企業を絞っていくと良いと思いますよ。自分の心のアンテナ・センサーで、いろいろな刺激を受けて反応してみてください。
Q.初めから絞りすぎず・決めすぎずに考えていくということですね。
そうですね。さらに絞っていくときに気をつけてほしいのが「いろいろな未来がある」ということ。たとえば「開発職」に就くとしても、「A業界の開発職」という未来もあれば、「B業界の開発職」という未来もあって、そのどちらにも必ず魅力があるはずです。これからのストーリーは無限大にあるので、あまり「これだけだ!」と志望先を固めすぎないようにしてほしいですね。
いくつか選択肢を持っている状態で、自分の適性や持っている技術、キャラクターが合っているかどうか、すり合わせをしていくといいと思います。私はよく「心・技・体のみつどもえ」が、自分と企業の双方で合う会社であれば活躍できるはずだと学生さんにはお伝えしています。
Q.「心・技・体のみつどもえ」について、もう少し詳しくお伺いしたいです。
「心」は企業側と学生側、それぞれにあると思っていて、企業側の場合は理念や仕事への向き合い方、考え方などのポリシー。学生側の場合は、それの裏返しで仕事に求めることや人生で何を大切にしているのか。「技」は、志望先で求められる技術のレベルや能力などの大学で学び得たこと、「体」は社風やキャラクターをさしています。自分の「心・技・体」と企業の「心・技・体」、それぞれがマッチしているのかのすり合わせをおこないましょうということですね。
たとえば、仕事への向き合い方やその企業の社風、「心」と「体」はマッチしていたとしても、技術が及ばなかった場合、その企業での活躍は難しいですよね。どれか1つが欠けているだけでミスマッチとなってしまいますから、この3つの観点がすべてマッチしているかきちんとすり合わせることが大切だと思っています。
Q.「心」の部分に近いかと思うのですが、長井さんの場合は「社会貢献」という意識がずっと軸としてあるかと思います。学生が、こういった「軸となるもの」を見つけ出すにはどうしたら良いのでしょうか。
正直、私自身はそのような「軸」などは無理に作る必要は全然ないと思っています。それよりも大切なのは「自分を求めてくれる人と出会うこと」だと思います。
そのうえで、その出会いや与えられたフィールドを大切にすることができると、自分自身の使命感が生まれたり、自分の特徴・強み・輝けるポジションが見つかるはずです。そういったマインドで就活はもちろん、その後の仕事をこなしていけば良いのではないでしょうか。
Q.では逆に企業選びやその後仕事をするにあたって、やるべきでないことはあるのでしょうか。
これは「選び手側の視点」でばかりいたり、「天職」を選ぼうとすることですね。このようなマインドで企業を選んでも、就職したあとに仕事がおもしろくなってはいかないのです。
選び手側の視点では、その企業の仲間となり働くんだという内部の思考になりきれていないですよね。また世の中自分を中心として回っているわけではないので、そもそも「天職」は存在しません。
そのため、このような視点で企業選びはしないほうが良いです。逆にどんな仕事でも、与えられたフィールドで「もっと何か改善できないだろうか」「この仕事はもっとおもしろくならないだろうか」と考えながら取り組むことで、その仕事が自分にとっての「天職」となり「おもしろい仕事」となっていきます。つまり仕事をおもしろくするのは自分ですし、仕事はおもしろいものではなく「おもしろくするもの」ということですね。
理系の進路はある程度受動的に決まりがち。だからこそその先は能動的に考えていくべき
Q.ちなみに、理系に特化したサービスを展開している長井さんだからこそいえる、「理系学生が就活をするうえで持っておくべき視点」などはありますか。
主体的に、自分のキャリアの方向性を先に決めておくと良いと思います。ビジネス側にゆくゆくは行きたいのか、それとも技術者としてずっとやっていきたいのかなどですね。
文系学生に比べ理系の学生はスキルや技術があるので、受動的でもある程度就職先が決まってきたりするものです。しかし、その選択が必ずしも「自分にとって幸せなマッチングなのか」は自分自身で定義しないとわかりません。受動的にでもある程度進路が決まるからこそ、ある程度自分の幸せやキャリアについては主体的に考えておく必要がありますね。
文系学生は総合職・一般職としての募集が多い中で、理系学生はそこに「専門職」という選択肢が加わります。その分描ける将来のキャリア像も多くなるはずです。選択肢が多くなるからこそ、自分の将来の方向性についてはきちんと考えておくべきですね。
Q.たしかに、それは理系ならではの視点ですね。ありがとうございます。では最後に、今まさに就活をがんばる・がんばろうとしている就活生へのメッセージをお願いいたします。
就活は、自分自身の可能性や今後のストーリーと出会える機会です。「本当に就職できるのだろうか?」と不安に感じることも多いと思いますが、自分の未来にわくわくどきどきしながら、そして空想もふくらませながら、自分の今後のストーリーをつくっていってほしいなと思います。
就活は実はジェットコースターに乗るときと似ているのですよ。怖がってジェットコースターに乗るよりも「自分がジェットコースターを運転してやる!」それくらいの強い気持ちで乗ったほうが数倍楽しめるはずです。逆に、受動的にジェットコースターに「座らされる」、「勝手に」ジェットコースターが走り出すとそれはもちろん怖いに決まっています(笑)。ジェットコースターに乗るときと同じように、就活も前向きに、自分から能動的に臨んでいってほしいなと思っています。そうすればきっと就活も楽しくなるはずですよ。