キャリア講義
入社後活躍したいならまずは意思決定の基準を探せ|自分が楽しく働く姿を明確にイメージせよ
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目次
小山 優真 さん(カンビア 代表取締役CEO)
Yuma Koyama●大阪府立大学卒業後、2012年に自動車部品メーカーに入社。2013年に技術系人材派遣のアスパークへ転職。300名から1700名まで急成長したフェーズで支社長などを務めた後、2018年に人材ベンチャーのLiBへ転職。スタートアップならではの刺激溢れる日々を経て、2020年11月に起業
Q.まずはご自身の就活を振り返ってお話をお伺いしたいです。
「売り手市場」と呼ばれる現代とは違い、当時はリーマンショックの影響がまだ残る頃。ただでさえ「直近10年で最悪」とまでいわれた厳しい就職環境でした。それに加えて私は第二新卒枠で就活をしていたのでかなり苦労しましたね。
というのも、周りが就活に励んでいる大学4年生の頃、私は会計士試験の勉強を優先するため就活をしなかったからです。ところが大学卒業後の試験結果発表でまさかの不合格。そこから慌てて第二新卒枠で就活をスタートさせるドタバタぶりでした。
Q.それでもすぐに就職はできたのですよね。
はい、幸いなことに比較的早くに自動車部品メーカーに入ることができました。しかし、入社してみると仕事の内容や勤務形態がイメージしていたものと大きく違ったため、やり直すなら早い方が良いと考え8カ月で辞めています。
就活市場の厳しさから、やはりどこかで就職を焦っていたのかもしれません。結果的に企業分析が不十分だったことが失敗の原因でしたね。
Q.そういったご経験を踏まえて、当時の自分にはどういったことを伝えたいでしょうか?
「入社後の自分がその企業で働く姿を具体的に思い描けるのか?」とたずねたいですね。もっと志望する会社についてしっかりと調べておいたら良いぞとも思っています。
とはいえ、もちろんそれでも全部を知ることはできなかったでしょう。誰でも、入社後に違和感を覚える場合もあると思います。
「入社したらまずは3年働こう」と耳にすることもありますが、ミスマッチのまま3年を過ごすのも機会損失になり得ます。早めに転職という選択肢もありではないでしょうか。
実際、私の場合は早めの決断が成功だったと感じています。
働くことのおもしろさに目覚めて仕事での活躍がスタート
Q.再度スタートさせた就活ですが、次の転職先はどのようにして選んだのですか。
転職先に選んだのはエンジニア特化型の人材派遣会社。その頃はまだ人材系の仕事に強い興味があったわけではありませんでした。
決め手は営業職でバリバリ働けそうだったことと、新しいことに挑戦している会社の姿勢に共感できたからです。若手に仕事を任せてくれる会社であることも、ある程度入社前に確認できたので決めました。
この会社で営業のおもしろさに目覚め、懸命に働いて、福岡・金沢・横浜の各支社で支社長を務めることができました。最初に支社長を務めた福岡では、営業以外にも採用活動やマネジメントなど、初挑戦なことだらけで苦労や失敗も沢山ありましたね。
しかし次に支社の立ち上げをゼロから任された金沢では、たった1人で開設した支社を1年半で社員50名以上の営業拠点にまで成長させることができました。
Q.福岡で苦労した経験は無駄ではなかったということですね。
そうですね。福岡では苦労し成果も上がらない辛い時間も過ごしましたが、結局はその経験を金沢での仕事に活かすことができましたし、もちろん金沢での成功からも多くを学ぶことができ、自信もつきました。
その結果、その後支社長として赴任した横浜でも売り上げを2倍以上に拡大できています。
1人だけではできないことを皆でやり遂げた原体験は、起業後でも活きています。振り返ってみれば学生時代にもサークルを立ち上げるなど、人を巻き込んで何かをすることが好きだったのだと今になって思いますね。
Q.ファーストキャリアは波乱のスタートでしたが、転職を機に事態が好転し、これからのキャリアも見えていったように思います。
営業の仕事のおもしろさを理解できたのに加えて、人材系ビジネスの成長性も肌で感じることができました。そして起業を意識するようになったのもその頃からです。
Q.それまでは起業を意識したことはなかったのですか。
大学では経済学や経営学を学んでいましたから、その頃から起業には興味がありました。学んだことを活かしたくて「ビジネスサークル」「デジカメサークル」を立ち上げましたが、それでも起業は漠然とした憧れレベルの話でしたね。
しかし支社立ち上げなどある意味起業に近い経験で結果を出すことができると、起業は憧れから現実レベルに。
ただ、人材業界の中でも「技術派遣」という特定分野の知見しかない焦りがありました。当時はインターネットや正社員採用の分野にも興味があり自分自身をさらに高めたいことから再び転職する決意をしました。
同じ人材業界でも、5年間務めた前職とは違う分野で事業を展開する会社に入り、ここで3年間にわたって採用コンサルや採用支援の経験を積みました。
加えてテクノロジーの活用やマネジメントについても学び、2020年に満を持して理系新卒採用プロダクトを提供するカンビアを起業しました。
過去の経験から自分の判断軸をあらためて洗い出し、言語化しておけば就活の役に立つ
Q.第二新卒から二度にわたり転職した経験から、就活や仕事選びに関する準備で大切なことは何だと思いますか。
自分の判断軸をその背景ごと洗い出して、これまでどういう意思決定や価値判断をしてきたのかを掘り下げ、それを言語化しておくことは就活や転職に大変役立つはずです。
たとえば学生時代に何にトライし、なぜそれをしようと思ったのか。あるいはサークル活動をしていたのなら、そのサークルの何に興味がありどういう理由で参加してみようと思ったのか。そんなところから自分の心の内を振り返ってみてはどうでしょう。
私は学生時代にサークルを立ち上げたり会計士試験を受験したり、いま振り返れば自分が新たな挑戦に価値を置いて生きてきたことがわかります。
にもかかわらずファーストキャリア選びでは、そんな自己分析が不十分なまま、挑戦とは縁遠い保守的な会社を選んでしまったのが失敗でした。あらかじめ自分の選択基準や志向をきちんと見つめて言語化できていれば避けられた失敗だったはずです。
Q.そういう反省を活かした結果、転職は納得のいくものになったわけですね。
はい。転職で出会った2社目では、挑戦に価値を置く自分とチャレンジし続ける会社の姿勢が一致したからこそ楽しく働いて自分の力を発揮できました。
自分の価値観と企業文化や社風が一致するかしないかは、仕事のパフォーマンスを左右するとても大きな要素です。
そんな自分の経験からも、就活前に自分自身のこれまでを振り返りつつ自分が何を価値基準とし、どんな判断軸で生きてきたのか見つめ直しておくことが、納得できる就活につながるのだと断言できます。
Q.ちなみに、チャレンジ精神旺盛な小山さんから見て、これから伸びる業界や業種、仕事にはどんなものが挙げられると思いますか。
やはりIT業界は今後も伸びていく分野だと思います。デジタル化の推進は年々加速しており、IT系の求人倍率は高い水準を維持していることがその理由です。
他にもITだけでなくハードウェア(機械・電気電子など)の設計開発なども人材不足がずっと続いています。専門性の高い分野では、このトレンドはまだまだ続くと予想しています。
求められるのは問題点を見つける課題発見能力
Q.現在人材系領域で活躍されている小山さんだからこそ思う、これからの時代に求められる人材について教えてください。
まずは変化に対して柔軟性がある人材ですね。現在の世の中は外部環境の変化が激しく、商品やサービスのサイクルも短いのが特徴で、それに合わせて働き方や仕事に対する意識もどんどん変わっていかざるを得ません。
そういう変化に対応するには何よりも柔軟性が欠かせないからです。
そしてもう一つ、課題を発見する力も同様に求められるでしょう。
課題に対する対処法を見つけるのはそれほど難しくありません。対処法に関する情報そのものは世の中にたくさんあり、ちゃんと調べればある程度の回答が得られる時代です。それこそ今流行りのChat GPTのようなAI(人口知能)を活用する方法だってあります。
ところが課題そのものを見つけるのは、回答を見つけるよりはるかに難しい面があります。とくに表面的な課題ではなく、物事の裏側に潜む課題を分析して発見するのはただでさえ難しい。
さらに、状況が次々と変化し新しい組合せのもとで生じる課題は過去の知識や知恵が及ばない難しさもあります。
モノやサービスがあふれた中、それでも絶妙にカバーしきれていない課題や見落とされがちな課題を発見していく力がこれからの人材に求められていくのではないでしょうか。
Q.それでは、そんなこれからの社会に飛び込む学生たちに就活のアドバイスとメッセージをお願いします。
3年後、5年後に自分が楽しく働いている姿をイメージしてみてください。そしてその姿になるべく近づけるような仕事ができる会社はどこなのか、その観点で会社選びをすれば良いと思います。
ここでいう「楽しく」とは「おもしろおかしく」という意味ではなく、自分が大切にしたい何かを、仕事をすること、働くことを通じて手に入れるという意味です。
その「何か」はたとえば良い仲間でも、仕事で身に付く専門性でも、もちろんお金であっても、人それぞれでかまいません。仕事を通じて自分が本当に望むものを手に入れられれば、これほど楽しいことはないでしょう。
より具体的なアドバイスを挙げるなら、就活にあたってとにかく自分が知りたいことやわからないことを率直に企業に質問する勇気を持つこと。
学生は企業や仕事についてほとんど何も知らない状態で就活に臨むのですから、少しでも知ろうと思えば尋ねてみるしかありません。
企業側も学生との率直なやりとりを通じて互いを知り、お互いに納得できる就職、採用につながることを望んでいます。