キャリア講義
キャリア形成に無駄な経験は1つもない|目の前のことに懸命に取り組めばキャリアは拓ける
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目次
桜井 貴史 さん(ベネッセi-キャリア 商品サービス本部 本部長)
Takafumi Sakurai●早稲田大学卒業後、大手人材サービス会社に入社し、一貫してキャリア教育や就職採用支援事業に携わる。2016年11月、パーソルキャリアに入社。ベネッセホールディングスとの合弁会社、ベネッセi-キャリアにて、成長支援型ダイレクト・リクルーティング事業を立ち上げる。現在は、パーソルキャリア・エグゼクティブマネージャー、ベネッセi-キャリア商品サービス本部本部長として、商品サービス全般を統括。各サービスを通じて、年間約60万人以上の学生のキャリア支援に従事している
Q.桜井さんはこれまでどのようなご経歴を歩まれてきたのでしょうか。
大学時代は教育を専攻していました。小学生の頃から、テレビドラマの影響もあり漠然と教師や教育分野に興味があったのです。その流れで大学もなんとなく教育学部に進学したのですが、進学した大学は小学校の教員にはなれなかったこともあり、自分自身の将来がわからなくなってしまいました。
将来のことをいろいろと悩みもがく中で、たまたま大学の掲示板に貼ってあった大学院の公開授業のチラシを見て、ベトナム・ハノイ大学との初の遠隔授業トライアルに勇気を出して参加。当時まだインターネット黎明期だった中、日本の大学生が遠い国の学生と一緒にライブで授業をしている姿を見て、教育とテクノロジーがつながることで何かおもしろいことができるのではないかと思うようになりました。
その後、その「何かおもしろいこと」を探していたところ予備校の小学生向けデジタルプログラムの新規事業スタッフ募集の広告を見つけて即応募。学生ながら契約社員として採用されました。そこで、小学生向けのデジタル講座の企画や運営をすることに。参加した児童たちが目をキラキラ輝かせている姿を目の当たりにして、人が何かを学んだり喜んだりすることの魅力に気づいたのです。
そんな2つの経験から次第に、自分が作ったサービスを通じて人が輝く機会を提供する仕事がしたいと思うようになり、ファーストキャリアから人材業界に進むことを決めました。
与えられた目の前の仕事を一生懸命結果で返そう
Q.ご自身がキャリアを考えるうえで大切にされていることはありますか。
尊敬する上司からもらった「キャリアは目の前のことを一生懸命にやった結果」という言葉は大切にしています。
入社してしばらくは希望だったサービス開発の仕事には就けませんでした。縁もゆかりもない地方での広告営業などをしていたのですが、かたや華やかな部署で活躍する同期の姿を見て、自分は何をやっているのだろうと、置いていかれる感覚にもなったことを今でも覚えています。
また、その会社は退職率も高く、周りの人がどんどん辞めていくような会社でした。もちろん、キャリアアップのために退職を決めた人もいる一方で、逆にネガティブな感情で退職していく人も。それを見ていた自分は、辞めるなら納得して辞めたいと思うようになっていたのです。
もともと、過去の経験から企画をやりたいと思っていたのですが、入社数年の自分にはまだまだその機会が回ってくることもありません。その当時はやりたいことができないことへの不安を感じており、焦っていたと思います。その一方で、今ここで辞めてしまうのはまるで逃げるようで、この選択を一生後悔するだろうとも思っていました。そんな感じでキャリアに迷っていた20代の時期でしたね。
Q.そんな迷いの中で、何か気持ちが切り替わるきっかけなどはあったのでしょうか?
そのような時期に、キャリアに悩んでいる私を見て上司から「目の前のことを一生懸命やっていたらキャリアになるよ」というアドバイスを頂きました。正直、アドバイスを聞いてすぐに霧が晴れたというわけではありませんが、なんとなく今は目の前のことをちゃんとやろうかなと思いながら頑張ってきたと思います。
そして20代後半ぐらいになってようやく、徐々に自分の強みがわかりはじめてきました。
営業、広告制作、コンプライアンス、システム開発、事業計画と、それまで社内での異動が多く、職種に一貫性がないことで明確な強みやキャリアプランがないと思い悩んでいましたが、そのことで多角的な観点をケアしながら仕事ができる人材になっていました。またどんな仕事でも手を抜かないと評判になっており、知り合いの上司からどんどん助っ人を頼まれるように。気づけば頼られる存在になっていったのです。
そうやって30代になる頃に、これまで出した結果が実り自分がやりたかった商品企画の仕事を任されるようになりました。そうすると、これまでのキャリアが活きていると体感する場面が増え、次第に自信へとつながってより一生懸命働くことができました。
たとえば、やっているときは悩んでいた営業での経験があったことで、顧客のことや実際に商品を売る営業の気持ちがわかり、営業が売りやすい商品が作れるようになったのです。また、事業企画やシステム開発の経験があったおかげで、新規サービス開発にあたって検討すべきことが理解できており、社内起案からサービスのローンチまで仲間とともに一気に進めることができました。
自分の心に素直になって興味を広げる
Q.そういったこれまでの日々の仕事やキャリアにおける意思決定で、大切にされてきた考え方はありますか。
まずは目の前のことをしっかりやることだと思います。与えられた仕事に対して、最大限の結果を出すようにすることを第一に考えてきました。そうすることで周りの人から頼られ、結果としてやりたいことにつながったと思っています。
キャリアを考える際に、Will(やりたいこと)-Can(できること)-Must(やらなければならないこと)という考え方がありますが、一般的にはよくWillが大事といいますよね。一方、まずはMustを積み重ねることにも価値があり、それによりCanが増えてWillにつながるということもあります。そういう意味でもMustにはちゃんと向き合った方が良いと思います。
それから、自分の心に素直になって興味を広げる努力も大切にしてきました。自分の心に気づくことが、キャリアを考えるうえで実は重要だと思います。居心地の良さや違和感など、自分の気持ちの変化には自分自身で気づいてあげる必要があります。勇気を出してさまざまな機会に触れること、そして心が動いたことを見逃さないことがいい縁につながる気がします。「心に素直になる勇気」を持つことは、自分自身のキャリアを広げ、思いも寄らない機会をくれるはずです。
そして「自分から機会を作り、機会によって自分を成長させる」ことを意識すること。人から機会を頂いた場合、まずはその期待に精一杯応えることが大事ですし、それは前提だと思います。ただそれだけではなく勇気を出してその機会を自ら作ることも同様に大事だと思います。新しいチャレンジは結果が伴わないことややってみたものの心が躍らなかったということが9割以上かもしれません。ですが、その分その1割は本当にすばらしい機会になると思いますし、9割の無駄に思えることも、それは逆に「自分は好きじゃない」「自分には合わない」と気づくきっかけになるので、とても価値があります。そう考えると、自分が経験したことで無駄な経験は1つもないと思うのです。
楽しみながら成長できる環境で笑顔になれる瞬間を
Q.では、桜井さんにとってご自身の充実したキャリアの状態とはどのような状態なのでしょうか。
まずは、人から楽しいと聞かれて素直に心から楽しいと言える状態です。私の場合、自分が生み出したサービスでお客様や仲間が喜んでくれたり、そのような事業やサービス、チームに自分が関与できていると感じたときに、心から楽しいと思うことが多いです。
大学時代にもフットサルサークルを立ち上げたことがあります。設立当初から「下手な人でも楽しめるフットサルサークル」というコンセプトを掲げており、現在は大学公認サークルにもなってすでに20年以上の歴史があります。そうした場づくりにかかわれたことは嬉しいです。また、こういった新しく何かを生み出す過程では悩むことも多々ありましたが、自分以外の人の話を聞いて自分の中に取り入れるなど、工夫を積み重ねることで結果として自分自身の成長にもつながってきたと感じています。
また、私が編集長を務める「dodaキャンパス」も、こういったサービスを作りたいと考えて転職して新しい仲間と生み出したサービスです。徐々に仲間が増えていき、今では多くの学生や企業にも利用していただいています。かかわる人々が笑顔になれるサービスを生み出し、そういった時間を重ねられるのは純粋に嬉しいですね。
Q.学生がキャリアの充実を目指している最中、壁にぶつかったり行き詰まりを感じることもあると思います。そんなときに乗り越える方法を教えてください。
早くこういった「もがき」から開放されたいと焦る人も多いと思いますが、私は逆にもがいているときは「良い状態」だと思います。もがいているということは、理想とのギャップを埋めようとしているということであり、そのために力も尽くしますよね。その過程で自分なりの泳ぎ方を理解したりゴールや正解も徐々に見えてきたりすると思うからです。
もし途中でギブアップしても、やはりそれまでの経験で無駄なことは1つもありません。自分のことがよくわかり、次の選択肢がわかるからです。それだけでもやった価値はありますし、もがいている状態を一定期間体験することでしか得られない気づきがあると思います。
Q.桜井さん自身は、今後どのようなキャリアを歩みたいと考えていますか。
引き続き、「働くことが楽しい」と思える人が増える仕事をしたいと思っています。サービスや事業を通じて、多くの人に素晴らしい体験を提供したいと思っていますし、さらに新たなサービスや事業を創っていきいきとした働き方ができる人を増やしていきたいです。「キャリアは目の前のことを一生懸命にやった結果」を胸に留め、引き続き謙虚に成長していきたいですね。
Q.これから社会人として、望むキャリアに向かって歩き出す学生の皆さんへメッセージをお願いします。
大学生時代は、自分がどのようなキャリアを歩むのかを考える大切な時期です。自分らしさを考える際には、ぜひこれまでの体験の中にある、気持ちのちょっとした変化を大事にしてほしいと思います。なぜ心がその時動いたのか、そこに自分らしさのヒントがあります。
また、社会は皆さんの想像以上にものすごく広いです。今の自分自身の興味関心にとらわれすぎず、勇気を出してさまざまな機会に触れてみてほしいです。そういった過程の中で自分の心の変化に向き合うことで、自分らしさがより理解でき、新たな興味関心にも出会えると思います。だからこそぜひ挑戦を続けてほしいですね。皆さんのことを応援しています!