キャリア講義

キャリア50年ずっと主役であり続けるために|内定をスタートとしキャリアを自分でプロデュースしていこう

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兵頭 秀一 さん(ちかなり・代表取締役)

Shuichi Hyodo●東京経済大学経営学部卒業。ファーストキャリアとしていなげや(食品SM:東証一部上場)に就職。6年間の店舗勤務を経て28歳から35歳まで同社人事部。その後3度のキャリア転職をし、採用業務を中心に人事業務全般に従事。最大規模では年間600人採用のプロジェクトリーダーを務めた。IT企業で採用担当をしていた2007年、同社の新人エンジニア数名の有志とともに週末勉強会を主催。その勉強会を通じて週末起業でプロジェクトを立ち上げ、就職サイト「合説どっとこむ」を創業。翌年ちかなりを設立。筆頭株主兼代表者として2022年で15年目を迎えた。

Q.兵頭さんの就活生時代についてまずは教えてください。

今考えても本当にしょうもないダメな就活生でしたね(笑)。高校から大学の7年間はバドミントンに夢中で勉強はろくにせず、よく卒業できたなと思います。スーツを着て働ける自身もなかったので、肉体労働ならやれるだろうという理由でスーパー業界、その中でも日頃利用していたスーパーで東証一部上場という理由でいなげやにエントリーし、そのまま入社しました

現在のように、就活ノウハウが世にあふれているわけでもなかったので、就活の突破口がまったくわからず苦労しましたね。ナビサイトへのエントリーから説明会参加、選考へという流れが滑らかな今の就活生は少しうらやましく感じます。

Q.そんなスタートを切った兵頭さんはその後どのような社会人生活を送られてきたのでしょうか。

学生時代のバイトに比べ、当然ですが給料が上がりそれだけで満足していました。志も野心もない、しょうもない新入社員でしたね。幸いだったのは新卒一年目に配属された店舗でかっこいいと思える先輩に出会えたこと。その人への憧れからかっこいい仕事人になりたいと私のスイッチが入りましたね。

8年ほど店舗勤務をしていたのですが、当時は珍しくPCが扱える社員だったことから白羽の矢が立ち、その後本社の人事部に異動となりました。これが今に至る「人事の専門家」としてのキャリアの始まりでした。

3年間の労務担当を経て5年ほど新卒採用の責任者を務めたのち、30歳を過ぎたころにふと自分の人生について考え出しました。将来を見据えたときに、このまま人事の道を歩むか、それともスーパー店員のプロになるか。結局、人事職での転職を決めたのですが、その背景には「自分が転職市場で通じるか」を試したいと思ったことがあります

このままいなげやにすがって、依存するのは一社会人として少しリスキーだなと。会社に頼らずとも生きていけるような人であるか試したいという思いで転職することを決めました。

さまざまな可能性を考えた結果が大幅な年収アップにつながる

Q.転職を決める際はどんなことを考えられていたのですか?

大手パチンコホール企業であるダイナムから内定を頂いたのですが、実際に「転職するか」の決断をするのに一番悩みましたね。というのも現職と転職先、どちらにもメリットとデメリットが存在するなと。

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いなげやに残るメリットは、慣れと人脈、そして東京中心の生活でした。しかし当時のいなげやが今後2,3倍の成長を遂げるのは見込めないというデメリットもありました。安定性は抜群の会社でしたが、定年までここで働いても会社が大きく成長するステージはやってこないだろうと感じていたのです。

その点ダイナムにはこれからの大きな成長が見込めたのですが、そもそもパチンコを知らないですし実績も人脈もない。

悩みに悩んだ結果、「挑戦しなかったことの後悔をしたくない」と考え、最終的に転職を決断しました

Q.きちんと双方の企業について多角的にとらえたうえで決断をされたのですね。

そうですね。もう1つ、ダイナムに興味を持った理由は労働生産性が優れていたことでした。労働生産性とは「従業員1人の1時間の労働でいくらの粗利が出るか」という指標で、ここは経営者となった今ももっとも重視している経営効率数値です。ほとんどの就活生はこの重要な数字がノーマークなのではないでしょうか。

民間企業は従業員が働いて稼いでお金を得ます。しかし世の中には1時間働いて10万円の粗利が出る仕事もありますし500円の粗利しか出ない仕事もあります。どちらの仕事をした方がポジティブかは言うまでもありませんよね。

そしてここで見るべき労働分配率(粗利の中に占める人件費)の国内平均は約50%。つまり時給1000円もらうなら1時間で2000円の粗利が出る仕事をしなければ経営は成立しないのです。たとえば年収600万円なら時給換算で約3000円。ということは労働生産性が6000円を超えていないと年収600万円は成立しないのですが、日本の労働生産性平均は4000円台というのが実情でした

当時のいなげやは労働生産性が3,800円、ダイナムは10,000円を超えていたのです。この数字が逆だったら転職はしていませんでした。これも転職を決める重要なポイントでしたね。実際、この転職によって私の年収は200万円ほどアップしています。

常にかっこいい自分であるために! 40歳以降のイメージこそ最重要!

Q.兵頭さんはどのようなことを考えながらご自身のキャリアを描いてこられたのでしょうか。

40歳以降のことを常に考えてきましたね。多くの学生が40歳頃までのキャリアはよく描いていると思うのですが、実際今の学生が定年退職するのはおよそ70歳頃かなと思います。

40歳から70歳はなんと30年間。22歳から40歳よりはるかに長い年数ですよね。しかし40歳~70歳の30年間に仕事で輝き続けることは、40歳までの18年間と比べてはるかに困難なことです。だからこそ40歳から70歳までの30年間のキャリアについても考えておく必要があると考えています。残りの30年も主役であり続けたいですよね。

私は、自分にも自分の仕事にも誇りを持って働き続けることが大切だと思っています。そう考えた時に40歳頃までは基本的にキャリアにさほど大きな差はありませんが、そこから差がついていきます。一般的に部長や取締役などに昇進するのはこれ以降ですからね。場合によっては年下に抜かされることもあるでしょう。そのときに誇りや尊厳をもって働き続けられるでしょうか。

自分の仕事に誇りと尊厳を持ち、かっこいい自分であり続けるためにも40歳以降のキャリアは明確に考えておくと良いですね。

Q.そのためにできることは何があるでしょうか。

学生にもよくアドバイスするのですが、自分のキャリアをセルフプロデュースすることですね。自分のキャリアは自分で切り拓いていくものです。

数千人規模の大きな会社の人事部を複数経験して驚いたことは、キャリアをセルフプロデュースする人がほとんどいないということでした。人事異動の発令を待ち、会社の指示に応じて動いている人があまりにも多いなと感じています。自分のキャリアなのにもかかわらず人によってつくられたキャリアになっていますよね。社内での積極的な挙手なり、転職検討なり、かっこいい自分であり続けるためには、自分のキャリアは自分でプロデュースしていくべきです。

Q.就活時点、企業を選ぶ際にはどのような心掛けでいればいいでしょうか。

「仕事でかっこいい50歳になった自分の将来像がイメージできる会社か」を考えましょう。そのためには企業の役員を含む40歳以上の成功者のキャリアパスはマークすべきです。

プロ野球選手を目指す小学生はプロ野球選手の成功例も失敗例もたくさん知っているし、年齢ごとのあるべき状態もイメージできていますよね。それと同じことです。企業のホームページや採用サイトには役員一覧が載っているはずなので、その一覧を見るなどし、その企業では何歳くらいで役員になれるのかのキャリアパスをなんとなくでもつかんでおきましょう。

キャリアの先を学生はよく見ていないからこそ、内定がゴールになってしまうのです。キャリアをかっこよく歩むことを考えれば、内定や入社はスタートでしかないですよね。入社してやっとキャリアが始まるのですから。学生には就活において内定ではなくその先にあるキャリアまで見据えてほしいと思っています。

Q.ここまで「かっこいい」という言葉がよく出てきますが、兵頭さんにとって「かっこいい自分」とはどのようなものなのでしょうか。

状態目標はシンプルです。年下の若いビジネスパーソンに「兵頭さんのようなキャリアに憧れる」と言ってもらえるかどうかですね。実際経営者になってから何人かの若者にこれを言ってもらえたことがあり、その瞬間に自分の中で目指す状態が明確になりました。

先ほどの話と少しかぶりますが、皆さん下からの評価をもっと気にすべきです。下から評価される人はその分人の上に立てる人間になりますよね。下からの評価が低ければ、後輩が先に昇進し、最悪自分が後輩によってリストラされることもなきにしもあらずです。「あの人のようにはなりたくない」と陰でささやかれる中高年には絶対になりたくないですし、そんな人生は少しかっこ悪くないですか?

企業選びの前に、まずは自分がどういう役割でありたいかを考えよう

Q.では次は、学生が企業選びにおいて持つべき視点についてお伺いしたいです。

少し話がずれますが、私は企業や業界を選ぶ前に「秀吉か大工かを先に決めろ」と伝えています。大阪城を建てるという仕事における役割の違いであり、指示出しをしたいのか現場で働きたいのかということですね。この場合秀吉はマネージャー、大工はワーカーにあたります。

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秀吉になれば、収入が高い・歴史に名を残すことができるなどといった魅力がありますが、大工に比べ仕事に忙殺されることが多いと思います。逆に大工であれば、年収はそれほど跳ねあがりはしないもののワークライフバランスは秀吉よりも担保されるはずです。

どちらも社会的には重要な仕事でありそこに優劣はありません。職業選択の自由の第一歩、なのです。どちらを取るかをまず自分の中で決めることが大切ですね。それが決まれば、そのなりたい姿をかなえやすい企業を選ぶことができるはずですから

また面接官の立場から言うと、「大坂城を作る仕事がしたいので御社を志望しました」と言われても、秀吉をやりたいのか大工をやりたいのかが不明確では合否判定が難しいのです。判定ができなかった時の答えは「不採用」となりやすいです。

Q.近年の就活市場では、就活生の「3年3割問題」が叫ばれていますよね。

これは、ならざるを得ない状況になっていると思います。大きな原因は以下の4つではないでしょうか。

①内定をゴールに見据えるという間違い
②未来(志望動機、キャリアイメージ)を見据えるべき新卒就活で、過去(ガクチカ、自己分析)に向き合ってしまっている
③面接の時点で社長の名前も知らない
④労働生産性という重要な数値への無理解

労働生産性については先ほどお話しした通りです。金銭的な面は避けては通れませんからね。

重大な問題はエントリーシート(ES)の存在でしょう。そもそもESの内容が過去寄りですし、ESが通らなければ選考が始まらないため、学生の多くはESを書くことに忙殺されています。その結果、企業研究がおろそかになりWikipediaを見れば簡単にわかるような社長の名前すら知らないという学生が非常に多いです。企業研究、会社理解はそれすなわち社長・創業者理解です。社長を知り尊敬しついていきたいと思えなければ長く続くはずがないのです。特に社長と社員の距離が近い社員数200人以下の企業では重要になるでしょう。

これは、就活のゴールが「内定」になり、選考突破対策が受験勉強のようになっているからこそ起こっているものだと思います。学生がこの意識を持てない限り、この問題はなくならないと思っています。

Q.最後に、就活生に対しメッセージをいただきたいです。

騙されたと思ってテレビ東京の「カンブリア宮殿」とNHKの「プロフェッショナル -仕事の流儀-」を毎週のように見てください。これはふざけているのではなく真面目に思っています。あの番組に出ている人たちはかっこいい社会人ばかりですよね。将来のキャリアを描くうえで、参考とできる人物がいることは非常に重要です。どんな社会人になりたいか、想像をふくらませてみてくださいね。

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