キャリア講義
受動的に「知る」だけでなく思考を回せ|自分と社会と仕事、3つのリアルを理解してキャリアをデザインしよう
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目次
リアライブ・Vice President 鶴野 敬文 さん
Takafumi Tsuruno●大学卒業後リクルートに入社、「ジョブカフェちば」初期メンバーとして、3年間で延べ3,500人を超える若者の就職支援に携わる。2010年、人事コンサルタントとして独立したのち、2012年4月、現代表である柳田と共にリアライブを設立。人と企業の『過去・現在・未来』をとことん理解し、双方にとって幸せなマッチングの追求を一生涯のテーマとしている
Q.鶴野さんは以前リクルートで働いていたのですね。
はい、32歳まで勤めており、主に15~34歳までの若年層の就業支援と、企業側の採用支援をおこなっていました。働く中で、これは若い人と企業を元気にする、国力を上げる仕事だと強烈な刺激を受けましたね。非常に社会貢献性が高くやりがいを感じられたので、これを一生の仕事にしようと決めました。
Q.そう感じるようになったターニングポイントは何かありましたか?
「ジョブカフェちば」という、若者の就職活動及び企業の採用活動をサポートする施設の立ち上げに携わったことですね。キャリアカウンセリングをおこない、若者と地元企業とのマッチングを図ることにより、若年層のフリーター・ニート問題の解消と地方企業の採用力向上を実現しようという取り組みでした。
私が初めに担当した方は、29歳で初めての就職活動に挑むという人でした。結果として半年で内定を獲得し教育業界の企業に入社されたのですが、内定が決まったときは本当にうれしくて固い握手を交わしたことを今でもよく思い出します。一緒に自己分析を重ねる中で、人に気づきや学びを与えることにやりがいを感じる性格であったことや本人が持つ能力が教育業界で活かせるそれとマッチングしたのです。
人は誰しも「いいもの」を持っていて、その人はやっと自身の持ついいものを社会に提供できるフィールドに立ったのだと感じました。若年層はまだ自分のことも社会のこともよくわかっておらず壁にぶつかる人が多いです。その自己理解と社会理解を深めるハブ役になることが私の責務であると考えるようになりましたね。
Q.こういった「やりがい」、鶴野さんは働く中で見つけたとのことですが、学生のうちに見つけるための術などはありますか?
やはりいろいろな社会人に会うことでしょう。社会にはさまざまなビジネスパーソンがいて、さまざまな生き方があります。「これが正解!」という生き方はありませんから、その中で自分にとってかっこいいと思える人を見つけてみましょう。その人の生き方ややっていることが自分にとってのやりがいや理想像へのヒントになるはずです。
「やりがいややりたいことが見出せない」というのは、単にビジネスの世界に関する情報が不足している、ということがいえます。
業界研究や選考対策など、就活にはやることが多くありますが、何よりも先に社会のリアルと接してほしいです。なぜなら、就活は「内定を取るため」のものではなく「就職するため」のものであるから。就職後の姿を知り、自分と照らし合わせて考えることが就活においては重要であり、一番のキャリア教育であると思っています。
社会と仕事と自分のリアルを理解して仕事選びをしよう
Q.学生が仕事を選ぶうえで持っておくべき視点について、鶴野さんの考えをお聞かせください。
やっていることやサービスの提供先に興味を持てるか?は考えておいてほしいですね。そもそも仕事とはどんなものであれ誰かの課題を解決するものであり、その課題について深く知ろうとしなければ解決は難しいですよね。つまり興味関心がなければ仕事にのめり込めません。
ちなみに、私の父は土壌肥料の研究者で、米農家さんに対し、肥料をまく回数を減らし身体への負担を減らせるような肥料開発に取り組んでいました。非常に愛のあるサービスですよね。私は非常に共感しました。でも、これが農家さんや肥料に対しての興味関心がない人、あるいは日本の農業における後継者不足問題に関心がない人であれば、「へーそうなんだ」で終わってしまいますよね。
そしてこういった興味関心は自分の過去の経験や事象にもとづいて形成されるオリジナルのものだと思います。自分と向き合って何に興味があるかをまずは理解するべきですね。
Q.たしかにおっしゃる通りです。実際にその自分の興味関心にもとづき就職先を決めた学生さんの例があればぜひ知りたいです。
弊社が開催しているマッチングイベント「ジョブトラ」に来てくれた女子学生さんで、ある参加企業の仕事内容に非常に興味を示していた人がいました。それは新卒一年目でも年間100~150名の社長や役員などの経営層に対して営業をする仕事でした。
その企業を司る人たちへの営業は一筋縄ではいかないことを伝えましたが、彼女はやりたいという意志を曲げなかった。一筋縄ではいかない分、当たり前のレベルが上がるし成長スピードも格段に速くなる。つまり彼女は仕事内容を超えサービスの提供先に対し魅力を感じたのです。
詳しく話を聞いてみると、彼女は自分自身ときちんと向き合っていました。昔から、中学・高校・大学受験の際は常に今の自分のレベルでは到底届かないような学校を志望校とし、その目標をクリアしてきたそうです。あえて厳しい道を自分から選んできたのですね。その経験の上に今の自分があるという自負があるからこそ、就活という意思決定の場においても自ら険しい道を選ぼうと決めたそうです。
きちんとサービスの提供先と自分の過去の事実、そのときの感情とをつなげて、入社後のリアルを見据えた選択ができていると感じました。彼女は今まで以上に自分らしく生きていけそう、なりたい自分になれそうな予感がしましたね。
Q.素晴らしいですね。誰が聞いても納得のいく良い選択ができていると思います。
この事例のポイントは、まずはサービスの提供先を見るだけではなく、その仕事をした先の自分の姿もきちんと見られていること。それから過去の自分の経験にもとづいて仕事を選び決断が下せていることです。
彼女の就活は何も特別ではありません。社会のリアルや仕事のリアルをきちんと理解し、自分のことも同様に理解できているということ。ここの追求さえできていれば、自分にとって幸せな生き方が見出せますし、その理由も根拠をもって自分の言葉で語れます。
私は今までこういう生き方をしてきた。そして今後もそういう生き方がしたい。その生き方をかなえるためのツールとしての仕事であるという意識をもってもらいたいです。その意識で仕事選びをすると良いでしょう。
Q.難しいですが、これはぜひ就活生全員に取り入れてほしい考え方ですね。
その企業の社長がわかりやすい例を挙げていたので紹介しますね。
新卒一年目、スライムと戦うのかラスボスと戦うのかどちらが良いか。自社であればラスボスと戦います。
彼女はラスボスと戦うことに魅力を感じたのでしょう。
とはいえスライムと戦うことを選ぶことが悪いことではありません。堅実に一つ一つ階段を上っていきたい人もいますから。あなたがどちらに魅力を見出せるかという話です。そしてこういった人はあくまで「その企業には合わない」というだけであり、「必要ない」わけではありません。そしてこれがもっともミスマッチの解消につながるのです。
Q.逆に、やりたいことと自分の適性が合っていない場合はどうすれば納得感をもった選択ができるのでしょうか。
その場合私は「採用側の視点に立って考えよう」と伝えています。担当した学生さんの中に、ブライダル業界に興味がある学生さんがいました。興味はあるものの少し内向的な学生さんで、まったく選考に通らなかったのです。
ブライダル業界は人と接する仕事ですから、どちらかというなら外交的な人材が欲しいはずです。そして採用活動とは自社で成果を挙げられそうな人を採るものです。そういう観点で考えるとその学生さんは残念ながらブライダル業界への就職は少し難しいですよね。
私はこの部分を学生に考えてもらっています。採用活動とは何かにもとづき、ではブライダル業界で成果を挙げられる人とはどのようなスキル・思考・行動の特徴を持つ人なのか。これは自分で調べればすぐにわかることですし、人から教えてもらったことより自分で調べたことって頭に残りやすいのですよね。
これは「知る」と「理解する」の違いだと思います。主体的に思考を回し理解することによって納得感をもって選択できるはずです。これは就職後も大切にしてほしいことですね。
「知る」で終わらせずに思考を回せ! そして初めて「理解」ができ、自分の言葉で語れるようになる
Q.鶴野様のお話では「思考を回す」ことが一本筋としてあると感じます。
まさしくそうですね。とはいえ皆、行動のきっかけは「なんとなく」だと思います。それはそれでかまわないので、だからこそ、その「なんとなく」の輪郭をはっきりさせるために、まずは外から情報を仕入れてほしいです。
よく学生は「やりたいことがわからない」と言いますが、これはビジネスパーソンとしての「will」を知るきっかけがないだけだと思っています。だからこそまずはいろいろな社会人に会うこと。そして情報を仕入れましょう。そうすることでおのずと「やりたいこと」が見えてくるはずです。
そこからは「どうしてやりたいと思ったのか」思考を回しましょう。そうすることで納得感のある選択と自分の言葉で理由や根拠を語ることができるようになります。
Q.自分の言葉で語ること、ここができていない学生さんは意外に多い気がしています。
学生の頃から思っていたのですが、就活っていくらでも嘘がつけるのですよね。「御社の企業理念に共感しました」など。理念への共感は誰でもできるし言えるものだと思います。
でも理念はあくまでも「目指すもの」。では達成のためにどんなことをすれば良いのか。そこにどんな壁があるのか。それを知ると、当事者としてやるにはかなり難しいことに気づけるはずですし、達成のためにどうすればいいかと思考を回しますよね。
思考を回し自分なりの考えをもって語れる学生と、共感レベルで止まってしまう学生とではどちらに魅力を感じるかは一目瞭然でしょう。思考を回すことが自分の言葉で語るための第一歩ですよ。
Q.ありがとうございます。では最後に就活生に向けたメッセージをお願いしたいです。
あなたは何のために就活をしていますか? 私は就活とは、これまで生きてきた時間より遥かに長いこれからの人生を納得感をもってセルフデザインしていくことだと思っています。人生100年時代と言われる今、社会人としての人生をより豊かにしてほしいです。そのためにあるのが就活です。
これまでは親の教育方針や自分の住むエリアによって人生の方向性がある程度決められていました。しかし社会人としての人生は自由度が格段に上がります。これからの未来を自分で作ることができるのです。だからこそ就活には主体的に、ワクワクしながら取り組んでほしいですね。
自分の人生を責任をもってセルフデザインし、納得の意思決定をするためには正しい情報を豊富に仕入れることが大切です。だからこそ自分と、そして社会やビジネスと本気で向き合いましょう。そうすることで視野が広がり有益な情報が手に入るようになります。明るい未来を自らデザインしていきましょう。