キャリア講義
「気合い」と「戦略性」がキャリア成長の鍵となる|仕事の大元を考えて動ける若手は伸びる!
- 5807 views
目次
新井 翔太 さん(NINJAPAN 代表取締役社長)
Shota Arai●京都大学総合人間学部卒。京都大学大学院人間・環境学研究科在学中に米国で投資ファンドのインターンを経験。その後、ドイツ証券投資銀行統括本部、ドイチェ・アセット・マネジメントを経て、Abuild就活(アビルド就活)を運営するNINJAPAN(ニンジャパン)を起業。著書に『外資系投資銀行まで完全攻略 最強の就活フレームワークABUILD』がある
Q.まずは新井さんのこれまでのご経歴について教えてください。
大学時代は主に現代思想・哲学を学んでいました。卒業後、就職はせず大学院に進学。在学中にアメリカの投資ファンドで3ヶ月インターンをし、その後外資系の証券会社に就職しました。そこからこのNINJAPANを設立して今に至ります。
Q.金融業界を経て今は人材業界に身を置いているというのは、少し異色なご経歴というイメージです。
大学時代、学部解体の危機を経験したことをきっかけに、大学生における教育への興味や意識は常にありました。
そして、ファーストキャリアとして金融業界を選んだのには、大学時代に西日本一周をした経験がかかわっています。常々「日本には資源がない」と言われていますが、西日本一周をしてさまざまな土地や人、環境を目にし「日本ってめちゃくちゃ資源あるやん」と感じました。そこで気づいたことは「日本には資源がない」のではなく「資源が活かされていない」もしくは「認識されていないだけ」ということ。認識されなければそれは「ない」と同義になりますよね。
そこで私の軸が「埋もれた資源を活かすこと」に固まりました。要は隠れた物事のポテンシャルを伸ばしていくということ。そこで私が目をつけたのがファイナンスでした。日本はM&Aや株式発行など、ファイナンスにかかわる分野が弱く、経営資源が埋もれていると感じたのです。
Q.それがアメリカの投資ファンドでのインターン参加の決断にもかかわっているのですね。
そうですね。インターンでは投資先を選定したり、投資先にアドバイスなどしました。その中で実際自身の提案でひとつの企業の経営が動いたことがあって。本当に会社は動く、自分の力で社会は変えられるということを実感し、感動したのを覚えています。
企業が成長するということはつまりその企業の価値を上げることであり、それは会社という日本の資源を活かすことになっている。自分の軸がかなえられていることに喜びを感じました。
Q.そこから人材業界というのはかなり思い切った決断のように見えます。
外資系投資銀行に就職後、案件で大企業にかかわる機会があったことが人材・教育業界に進もうと思ったきっかけです。大企業にはそれだけ優秀な人が多いだろうと考えていたのですが、実際その企業で働く人とかかわってみるとそれほど優秀な人はいないな、あるいは優秀な素質はあるのにポテンシャルが発揮されていないと感じました。
そこで先の「資源を活かす」ということ。社会にはさまざまな資源がありますが、「人」も資源の一部であり、その企業ではその「人」という資源がうまく活かされていないと。そして、たくさんある資源の中でも、会社よりも人の方がコントロールをしやすく、コントロールしやすい方に力を注ぐべきだと思ったのです。
会社全体を動かせば会社の価値は上がりますが、優秀な人財を集め・育てることを通してもおのずとその企業の価値は上がります。そしてその方が実行の難易度は低いですし、その効果も高い。学生時代からの興味も合わさって、人材・教育業界の道に進むことを決めました。
戦略立てとそれをやり遂げることが目標達成には最重要!
Q.実際、起業されてみてどうでしたか?
そもそも「起業したい」といった憧れをもっていたわけではなかったこともあり、起業については若干軽く考えていましたね(笑)。これまでファイナンスなど企業経営に携わってきましたから、経営や経営戦略などについて頭の中ではわかっているつもりでした。夢を飛び越えて「起業とか余裕でしょ」、恥ずかしながらそう思っていました。
ところが、実際これが全然うまくいかないものです。事業計画通りに物事はまったく進まないのに、予想外のハードシングスは多々起こる。大変さを体感し、当時の自分が頭でっかちだったと思い知りましたね。そこから、今は「気合い」と「戦略」の2軸をもって仕事に励むことを心掛けています。
Q.「気合い」と「戦略性」、これは具体的にはどういうことでしょう?
まず、企業で働くうえで、私は以下のフレームワークが大切だと思っています。
戦略とは進むべき方向性のこと。わかりやすい例でいうと、自社の売上を上げるために「既存顧客をアプローチしてリピーターを増やす」のか、それとも「潜在顧客を見極め、新規顧客を増やす」のかが挙げられます。どちらの方向性を選ぶかで、そのあとの行動が変わりますよね。
そして戦術がその具体的な方法です。リピーターを増やすのであれば、たとえばスタンプシールを作ったりクーポンのついたDMを送信するなどの方法が考えられますが、それが戦術です。そしてそれらを「実行」して仕事やビジネスが成り立っていきます。そして今お話しした「気合い」とはこの「実行」の部分にかかわるものです。
Q.仕事やビジネスの進み方がよくわかります。
戦略についてはいわずもがな、計画や方向性が正しく定まっていなければ物事を動かし利益をあげることはできません。そして意外と難しいのが「実行」なのです。
たとえば、何かの課題が出されたとき、誰しも期日までにそれをやり切るスケジュールを立てますよね。しかし、実際にはたとえば「アルバイトが忙しくて」「今日は飲んだから」などと何かしらの理由をつけて、そのスケジュールを確実に実行していくのは意外と難しいもの。
立てた戦略やそれに基づいて組まれた戦術をいかにやり切れるか、ここは正直個人の気合いややる気次第です。そして私は目標を達成するうえでここが非常に重要だと思っています。
過去の経験を抽象化し、活躍可能性を発掘して伝えよう
Q.新井さんは、学生が就活をするうえで大切にすべきことは何だとお考えでしょうか。
就活の原理を知り、企業目線に立つことです。そのうえで自分の価値を相手に届けてほしいと思っています。
企業は、学生には入社後に自社で活躍してほしいと思っており、そのために活躍できそうな人財を求めています。「活躍可能性」は見ていますが、「これまでに活躍したすごい経験」そのものは特に求めていないのです。ここを勘違いする学生は多いですよね。可能性を見ている以上、大事なのは再現性。
普段から取り組んでいることでもなんでもいいのです。その経験を自分の価値として、仕事にどう活かせるかを採用担当者に届けてほしいですね。
Q.そうはいっても、どうしても経験ばかりに目が行ってしまうことが多いと思います。「仕事にどう活かせるか」の考え方のヒントを教えていただきたいです。
では逆に「すごい経験」から導き出してみましょうか。やることは簡単で、経験を抽象化すればよいのです。
たとえば「大学の陸上部で県内1位になった」という経験があったとします。そもそもこの経験に「再現性」はあるでしょうか。プロの陸上選手になるのであればその事実こそが再現性となりますが、一般企業で働く場合、陸上で1位の記録がそのまま活きることはまずあり得ません。
ではここで「1位になった」という事実だけを見るのではなく、それまでの過程などを考えてみてください。1位を取るまでに「毎朝1時間のランニングを欠かさなかった」という努力があったのなら、「毎朝ランニング→小さなことを継続→こつこつがんばってきた」と抽象化ができますよね。
そこから考えられるあなたの価値は、向上心であったり継続力であるといえます。それらは会社で働く際にも活きるもので、だからこそ伝えるべきは「陸上で1位」という事実ではなくこの「向上心」や「継続力」なのです。
選ばれるな、選べ。ベストマッチの企業でいきいき輝こう
Q.次に、企業選びで考えておくべきことについて教えてください。
大前提として就活とは、これからの社会人生活を豊かにするためのものです。そう考えるとミスマッチした企業で40年間も働くのは、自分の生活を豊かにはしないどころか不幸になってしまうともいえるでしょう。ベストマッチの企業でいきいきと働くべきですよね。
私は就活とはこの3ステップで進めていくべきと考えています。
自己発掘とは自分の過去を掘り下げること。そして自分のことを理解する。そしてそれをもとに自分の未来を決めていくのが自己決定です。自分が働くべき企業を選ぶにあたっての優先順位付けや望む働き方を決めていきます。
学生は、この意思決定をおこなうまでに、業界や職種、そしてさまざまな企業を調べますよね。しかし、その調べた結果と自己発掘の結果とをうまくつなげられていない印象です。
次の自己PRにもつながるのですが、就活は学生が「選ばれる」だけでなく、自ら「選ぶ」べきだと思っています。だからこそ選考の場において「自己をPR」できるのです。自分がその企業に合っているのか・向いているのかを理解しなくては自分をPRなんてできませんよね。
一連の調査をデータ集めだけで終わらせない。そしてこのフローをたどらずになんとなくで選ばない。ここが企業選びにおいてはとても重要なことです。
Q.ありがとうございます。では学生が入社し、社会人1年生となってからのキャリアの伸ばし方についても教えていただきたいです。
若手のうちから「できる」と思わせるには「いかに上司視点をもてるか」がカギです。
若手社員はどうしても雑務に見えることが仕事として多くなりがちですが、目の前の仕事だけを見ていると「この仕事がどうチームや会社につながっていくのか」がどうしても見えづらい。
ここで先ほどの「戦略・戦術・実行」を活かすと良いですね。どのような戦略のもとどういう目的でおこなわれる仕事の枝葉の部分を任されているのかが認識できると、自分のやっていることに意味を見出せます。どういう木の枝葉の部分になっているのかが理解できると、その目の前の仕事だけで仕事を終わらせずに、もととなる部分・戦術や戦略につなげられるはずです。
たとえば「インタビューでビデオカメラを持っていけ」と言われた場合。仮にカメラが破損していた時、その仕事だけを見ていれば「カメラが壊れていました」であたふたして終わってしまうでしょう。でもそのインタビューがどういう戦略のもとでおこなわれている戦術のひとつで、カメラがたとえば文字起こし用に録画しておくものだとわかっていたら、手元にあるスマートフォンのボイスレコーダーで代用できるかもしれない。
これぞまさしく上司視点・企業視点です。全体像をつかめればこういった行動ができるし、こういった行動ができる社員は「できる」としてどんどんキャリアが伸びていくはずです。