キャリア講義
企業選びは思考力×リサーチ力|複数の軸がキャリアの挫折を抑止する
- 5040 views
田中 陸 さん(For A-Career えーかおキャリア事業部 部長)
Riku Tanaka●大学卒業後、2016年に人材系ビジネスの企業に入社。リクルーティングアドバイザーやキャリアカウンセラーを経て営業リーダーを務める。2021年8月にFor A-Career(フォーエーキャリア)へ転職。新規事業の立ち上げにマネージャーとして取り組んだ後、2022年8月に「えーかおキャリア事業部」の事業部長に就任
Q.現在は就活や転職に関するビジネスを手掛ける田中さんですが、改めてご自身の就活を振り返ってみるとどうですか?
大学を卒業し新卒として臨んだ就活は苦い経験になりました。就活自体は順調で、20社近い内定を頂けたと思います。その中から不動産コンサル業を掲げたベンチャー企業を選んだのですが、結果的に2ヶ月ほどで退社しています。
大学生時代から、世の中に対して影響力がある仕事をしたいという思いがありました。だったら大きな金額を動かすビジネスに携わる必要があると思い、自分なりに十分に調べた末での決断だったと思っています。しかし結果は早期も早期すぎる退職。就活の際に説明された内容とかけ離れた仕事を振られ、働くモチベーションを保てなくなったのが退職の理由として一番大きかったですね。
ただし、今思えば自分自身にも反省すべき点がありました。そもそも「社会的な影響力→大金を動かすビジネス→不動産コンサル業」という発想の流れが短絡的でした。
またその会社が「ベンチャー企業100選」のような形で掲載されていたため、成長性もあり見栄えも良いと安心してしまいました。つまり自分の目と頭で判断することを怠り、他者の評価を安易に受け入れたうえに、勢いだけでファーストキャリアを選んでしまったのです。ここはファーストキャリア決めにおける私の一番大きな反省点です。
Q.この過去の経験を踏まえて、就活生や転職希望者に企業や仕事選びのアドバイスをするとしたら何と伝えるでしょうか。
ぜひともググる力を付けてほしいですね。つまり本当に調べるべき情報をきちんと調べられる力です。普通に情報検索しても、出てくるのは自分が求めている情報だけ、自分の発想を超えない情報だけです。たとえば営業の仕事が苦手な人が「営業職 つらい 退職理由」と検索すれば、それに沿った情報が表示されるだけです。そんな情報を見れば「やっぱり営業職ってつらいんだ……」と、営業職に就く意欲はなくなり営業職を選ばない理由を作れてしまいます。
しかし実際には同じ営業職でも「ウォーターサーバーを販売する営業」と「人材系のリクルーティングアドバイザーの営業」はまったく違う内容ですし、求められる能力も違ってきます。このことはググる力を鍛えればすぐにわかることですが、意外とその力がない人が多いように思います。きちんと一次情報までたどり着き真の情報を手に入れてほしい。この力は仕事や職業を選ぶうえで重要です。そして自分の頭で判断し決断してほしいですね。
Q.たしかに情報収集力は意識的に高めないと判断を誤りますね。
特に転職の場合になりますが、企業選びの際は総合的な判断をおすすめします。就活の軸を1本に絞る方法もありますが、特に転職者の場合は前職の経験の影響を受けやすいこともあり「私の軸はコレ」と決めつけがちです。しかしその場合、就職先が自分の思いや理想と少々違っただけで挫折しやすくなります。
軸が1本ではポキリと折れてしまう。業務内容だけを軸に選べば仕事の内容が少しずれていれば折れてしまうし、休暇の多さを軸に選んだ職場で、たまたま土日出勤を命じられただけで折れてしまう。でも軸が4本あれば折れにくいはず。
たとえば「企業目標への共感」「社風の魅力」「担当する仕事の魅力」「得られるベネフィットの大きさ」の4つの軸をもって総合点が高い会社を選べば、期待と現実に少々差があっても満足度を高く保ちながら仕事を続けられるはずですから。
転職先探しの中で芽生えた、同じ境遇の人たちを助ける仕事への関心
Q.新卒で就職したのちすぐに退職と、本人には予想もできない展開の中、第二新卒として就活をやり直したわけですね。
そうです。いざ転職先を探そうと動き始めて、初めて第二新卒や転職を支援するサービスがあることを知りました。加えてこうした支援サービスの存在を通して、世の中には自分と同じような境遇の人がたくさんいることにも気づきました。就活とは違い第二新卒としての転職活動がうまくいっていなかった自分だったからこそ、同じ境遇の人たちを助ける仕事がしたいと本気で思いましたね。
そこからの私の行動は今考えてもおもしろいと思います(笑)。転職サービスを運営している企業に連絡して、「御社のサービスを利用したいのではなくその事業に私も参加し取り組みたい」と申し出たのです。そんな形での就職志願は珍しかったのでしょう。おもしろい人材だと思われたようで就職することができました。
Q.その後、再度転職をして現職にいるわけですが、一度目の転職と二度目の転職、ここにおける違いは何かあるのでしょうか。
一度目が「道を誤った」というネガティブな転職だとすれば、二度目は「もっと上に行きたい」というポジティブな転職であることだと思います。前職は大企業で、組織としては上が詰まっておりこれ以上昇格して会社や社会に対して影響力を発揮できるようになるまでには時間を要すると感じたことが転職を考えるきっかけでした。
そう考え始めていたタイミングでチャンスが訪れたのです。For-A-Careerが新規事業に取り組むこととなり、立ち上げメンバーを探していました。人を介して誘いがあったとき、これは今よりも自らの手で社会に良い影響を与えることができるかもしれない。そう考えて転職を決意しました。一度目とはまったく違う心持ちだったことがわかると思います。
Q.では、こうして何度か転職も繰り返されてきた田中さんだからこそ、昨今あたりまえになりつつある「転職」についてはどうお考えでしょうか。
積極的に検討・実行していいと思います。転職支援サービスに携わっている者だから言うわけではなく転職の経験者として断言しますが、「転職をしようかな」という迷いが一瞬でも浮かんだ時点で転職を決断すべきです。
私は転職のおかげで改めて就活をおこない、日本には数十万社の企業がありたくさんの選択肢があることを実感しました。前職や現職にこだわったり、しがみついたりする必要なんてないことも学びましたね。
転職を迷った挙句に「転職しなくて良かった」と考えている人は決して多くないはず。むしろ転職しなかったことを後悔してる人のほうがずっと多いと思います。
Q.とはいえ迷いを吹っ切れない人がいるのも事実です。選んだファーストキャリアから逸れて第二新卒として転職を考えたりした際に、どういう判断基準で動くべきかヒントがあれば教えてください。
新たな一歩を踏み出すべきかどうかを判断する際に参考になるのが、自分の周りにいる人から自分がどう見えているかです。家族や親しい友人など信頼できる相手に自分がどう見えるのか聞いてみればいいでしょう。
「なんだか疲れているみたいだね」「いつもの元気がないなあ」などと言われるようなら、自分が仕事や職場で問題を抱えていたり不満を感じていると考えて良いでしょう。逆に「いきいきしているね」「張り切っているなあ」などと言われたら、すべてが順調な証拠です。
自分にとって仕事や職場は日常ですし、近くにいる分だけかえってブラックボックス化して客観的に見えなくなってしまう傾向があります。それでついつい隣の芝生が良く見えてしまったり、逆に知らないうちに頑張りすぎて潰れてしまうこともあるもの。周りの目はそれを防ぐ役割を果たしてくれます。
座右の銘は「計画は悲観的に、行動は楽観的に」
Q.たしかに意外と周りは客観的かつ冷静に本人のことを見てくれていますよね。
自分自身の考え方次第で迷いを吹っ切れる面もあります。私は「計画は悲観的に、行動は楽観的に」を座右の銘にしています。いざ行動となったら楽観的に積極的に動くようにしているので、行動力がある方だと思います。
行動には大胆さがあっていい。普通に仕事をしている中で生死を分けるような判断を下すことはありませんし、誤ったとしても自分が心配するほど大きな問題にはならないことが大部分。むしろ判断が遅れたり、行動できない弊害の方が大きいはず。だからある意味で考えずに動く姿勢も必要ではないでしょうか。
もちろん行動の手前では考えますよ。判断材料として、こう判断した場合はこうなるという複数のパターンを必ず用意し、あらかじめシミュレーションします。
Q.自分の判断が周りに及ぼす影響は考慮しますか?
もちろん周囲への影響はかなり考えるほうです。むしろ自分のことは二の次くらいに思っています。具体的には、AかBかを選択をする際には、どちらが幸福の全体量が多いかを考えます。
たとえば現在の職場で上司と自分以外に3人の部下がいて各部下が20人ずつ顧客を抱えているとしたら、60人の顧客と部下3人、それに上司と自分で、最大65人を幸福にできます。しかし転職先で部下が10人に増えれば200人以上を幸福にできます。
もちろん極端に単純化して説明していますし、自分を1人分でなく4人分、5人分としてカウントしても良いのですが、基本的には幸福の全体量が多い方を選びたいという発想が常にあります。そのような考え方は、我を抑えるために敢えて自分に課した思考法でもありますね。
Q.それでは最後に就活生が充実したキャリアを歩んでいくために、これから求められる人材像についてヒントを教えていただきたいです。
月並みですが新しいものを取り入れて前へ進む力がある人です。コロナ禍のような社会的な大事件やIT技術の急速な進化により、世の中の変化速度はこれまでとはくらべものにならないほど速くなりました。1年、2年で業界の基準や常識ががらりと変わってしまうような時代を迎え、物事に柔軟に対応できる人材が重要性を増しています。
そういう人材になるためには新しい情報に対する感度を高める必要があります。たとえば、現時点では自分とって関心がない情報も取り込めるように、ニュースをピックアップしてくれるアプリを使ったり、興味がない業界の専門家のSNSをフォローするなど、自分なりに情報流入の仕組みを作っておくことをおすすめします。
段取りをする力も大切です。ますます働く人の多様性が増す仕事の場で、一人ひとりの多様性を発揮してもらいながら多くの人を動かし、同じ方向を向かせて目標を達成するのは難しい作業ですが、それができる段取り力を持っていれば、リーダー人材として大きな武器になります。