キャリア講義
自分と仕事の関係性が円満なキャリアを目指すべし|イレギュラーな選択もキャリアの充実を助ける
- 3417 views
岡本 陽子 さん(fanfare 代表取締役)
Yoko Okamoto●1999年に大学卒業後、広告代理店に入社し求人広告等の営業を担当。仕事を通じて人材育成やキャリア支援にも関心が高まる。その後、別の広告会社や人材教育会社を経て2016年にキャリアコンサルタント資格を取得しフリーとして独立。2021年にfanfare(ファンファーレ)を設立し現職
企業詳細:コーポレートサイト
Q.学生当時の岡本さんの就活はどのようなものでしたか?
今でこそ就活やキャリアにかかわった仕事をしていますが、就活を始めた頃は自分の中にはっきりした軸がありませんでした。周りは何がやりたい・こんな仕事をしたいと盛り上がっている中、自分自身が何をやりたいのかつかめていませんでした。
そんな状態で何となく就活をしていても内定をもらえた企業もありました。しかしその会社での仕事に関心があるのかといえばそうでもない。だから内定獲得後も就活は続けました。
相変わらず自分がやりたい仕事は見つからないままでしたが、だんだん自分がやりたくない仕事や自分に向かない働き方ならはっきりとわかってきました。そこから私にとって本当の就活が始まったように思います。
Q.岡本さんにとっての好きになれない仕事や働き方とは何だったのでしょう。
まず自分は飽き性なので、毎日同じことを繰り返す仕事は嫌でした。同様に、1日8時間ずっと社内でデスクワークを続けるような働き方も自分には無理だろうなと思いましたね。
そうやって考えた結果、浮上してきたのが営業職。中でも広告営業に惹かれました。外回りの営業で社外に出られるし、いろいろな業界や会社がクライアントになる可能性があるので変化があって飽きることもなさそうですしね。
そこから広告業界の営業職の情報を集めていく中で、求人広告がおもしろそうだとターゲットを定めました。どの会社にとっても人材確保は重要で、経営者に営業をかけたり直接商談する機会も多そうだと感じたのです。
それで求人広告などを主に取り扱う広告代理店に的を絞るようになりました。
それからの就活は順調でした。大学3年の秋にようやく的が絞れたのですが、年明けには内定を取れましたね。
Q.いわば消去法的な会社選びだったと思いますが、結果的に納得する就活ができたわけですね。
はい。「何かをやりたい」ではなく、「これは嫌だ」「自分に向いていない」という思いが軸になりましたが、それだって自分の意志の現れであることに変わりはありませんからね。
結果として、「やりたくない」から絞って選んだ私の仕事は非常におもしろかったです。
Q.それから、現在はキャリアコンサルタント会社であるfanfareを設立されているわけですが、ここまでの経緯を教えてください。
求人を通じて関係性を築いたクライアントからDMや宣伝広告、企業パンフレット制作など、単なる営業のみならず商業広告系のクリエイティブを依頼されるなど、仕事が広がっていくのもやりがいにつながりました。
ただし続けていくうちに物足りなさも感じるようになりました。求人広告が発生するのは小売業やサービス業が新規出店するときや、企業内で欠員が生じた場合の補充がメイン。
限られたポイントで役には立てますが、その企業の人材採用についてはあくまで「点」でかかわっているイメージです。
人材を供給するところまではかかわれても、人材のその後にかかわることはない。それが物足りず、人材ビジネスに「点」でかかわるのでなくもっと「線」としてかかわりたい気持ちが膨らんでいきました。
それがきっかけで、キャリアコンサルティングという分野への関心が高まったのです。
キャリアコンサルタントなら、その人材の歩みたいキャリアや描きたい人生に寄り添うことができる。一回きりではなく、もっと長いスパンを見越しながら人材にかかわれるというところを魅力に感じました。
そこから人材教育を手掛ける企業に転職し国家資格であるキャリアコンサルタント資格を取得して、独立。そしてfanfareの設立に至ります。
何事にも素直さをもって臨めば、偶然運命的な出会いがあることも
Q.ではこうしてキャリア形成の専門家への道を歩んできた岡本さんだからこそ、現在の就活市場について課題を感じることはありますか?
現在、就活の場でもWeb活用が当たり前になっています。これにより良かった点はもちろん多いのですが、逆に残念に思うこともあります。
就活生が求める仕事や企業、希望するキャリアの道筋などに関する情報は、インターネット上で検索をすれば大概手に入ります。その反面、検索結果の上位に表示される情報やネット上で頻繁に目にする情報にばかり強く影響を受ける傾向が強まっています。
ですから予期せぬ情報との出会いが遠ざけられ、偶然の発見に遭遇するチャンスは以前より減ったのではないでしょうか。
それが良いことなのかどうなのか。私は就活にも偶然の出会いがあって良いと思います。情報を探すだけではなく情報と出会うことも大切です。
たとえば企業が集まる就活イベントや合同説明会に参加して、自分があまり関心がなかった会社の説明を聞いてみたり、採用担当者と言葉を交わすことは無駄じゃない。偶然が未来の可能性を開いてくれることだってあるのですから。
Q.企業としてはどのような人材を欲しい・採用したいと考えているのでしょうか。何か共通点はありますか?
素直さや正直さでしょうか。即戦力を求める中途採用ならともかく、新卒採用であれば素直に環境を受け入れる柔軟な人材が欲しいのはどの企業も同じです。
入社してすぐに自分の思い通りの仕事ができたり、理想的な環境が与えられたりしないことの方が多いのですからね。
新卒には新卒にできる仕事が与えられるわけで、それが自分の意にそぐわないものである可能性だって大いにあります。そんなときに、どんな仕事でも素直に受け入れて取り組むことが大切です。
その仕事を通じて得た経験や力が自分の糧になったり、それこそ自分の適性や新たな興味と偶然出会うことにもなるでしょうから。
Q.逆に就活生が企業を選ぶときに、どういう点に注目するべきですか。
新卒採用を継続的におこなっているかどうかを見てみてください。
私がかかわることが多い中小企業をベースに説明しますね。基本的に会社は新人が戦力になるよう、採用後2、3年かけて社員を育てます。その間に成長できれば順調なキャリアを歩み始められるといえるでしょう。
そして2、3年も経てば自分が後輩の教育担当になり、人を教える経験にも携わるはず。それによって成長は加速します。
この循環ができているのは良い会社だと感じています。3年、4年経っても次の新人が入ってこない会社にいると、いつまでも下っ端のままで自分の成長も滞ります。
そういう意味では、毎年継続的に新人を採用している会社かどうかは重要な選択材料のひとつになります。
キャリア「アップ」だけがキャリアの充実ではない
Q.ではそのように正しくキャリアを歩み始められるよう、企業選び以外に学生時代にしておくべきことはありますか?
仕事や働くことについて正しい認識を育てておくのは大切です。私は大学でキャリア相談の仕事もしますが、「働くのは生活のためでしんどいのは当たり前。だから仕事の適性なんて関係ない」という学生は少なくありません。
もちろんそれはそれで一つの割り切り方です。否定はしませんが、仕事や働くことに対して偏った認識でもあるでしょう。
学生時代にアルバイトを通じて、仕事のおもしろさを知ることはできます。何らかの形で、働くことはしんどいだけでなく得るものも楽しさもあるということを理解する経験をしてほしいですね。
Q.ちなみに、そんな経験ができるようなアルバイトとしてはどのようなものが良いのでしょうか。
学生アルバイトとしてポピュラーなのは飲食店の接客などですが、それを例にするなら大手チェーン店がおすすめです。
単に配膳の仕事を経験するだけでなく、サービスや接客の評価がどのような仕組みになっているのかなど、経営の裏側についても知ることができるはずです。仕事というものの全体像を理解するヒントを得る機会があります。
また評価によって時給が上がれば、働くことに対する意欲やモチベーションが変化していくかもしれません。ですから組織がしっかりした大手企業でアルバイトをしてみるのはおすすめですよ。
Q.学生時代の過ごし方から就活時に気をつけるべきことまで、トータル的なお話をありがとうございました。最後にキャリアの専門家として就活生へのメッセージをお願いします。
皆さんはこれからキャリアをスタートしてステップアップを目指していくことになりますが、キャリアアップと聞くと上に向かって階段を昇っていくイメージではないでしょうか。
キャリアを縦向きに積み上げていくものだと捉えがちですが、必ずしもそれだけではありません。
充実したキャリアというのは、上を目指すだけでなく自分と仕事との関係性をより良いものにして、働く意味や取り組む仕事への納得感・満足度を増していくことでも得られます。
そういう意味ではチームの仲間とのつながりの強化や深化もキャリアの充実を助けるでしょう。
つまりキャリアは縦方向だけなく横方向への展開によってもステップアップできるもの。そのことを意識して自分なりのキャリアを歩んでいってほしいと思います。