キャリア講義
与えられた仕事に疑問を持つな! 全力投球がキャリアを広げる近道
- 8709 views
目次
清水達也さん(DEiBA Comany・代表取締役社長)
Tatsuya Shimizu●早稲田大学理工学部機械工学科卒業後、リクルートに入社。在籍中、宿泊施設の予約サイトじゃらんnetの立ち上げの責任者を担い、取締役常務執行役員として同社の人材系事業を統括。リクルート退社後は、ベネッセホールディングス顧問などを歴任、新卒採用の理想を実現するためDEiBA Companyを設立し、現職。千葉商科大学やビジネス・ブレークスルー大学の講師も務める
Q:現在、DEiBA Company(デアイバカンパニー)の社長としてご活躍されていますが、ファーストキャリアはどのように決めたのでしょうか?
ファーストキャリアとしてリクルートに入社を決めたのは、当事者意識の強さに特に魅力を感じたからです。同じ研究室の先輩からの紹介が最初に接点を持つきっかけでした。内定をもらう前から先輩社員に会わせてもらい、気づいた社員の共通点は、「俺たちの会社は」と企業を主語にしているということ。2~4年目の社員数十人に会わせてもらったのですが、全員がそうでした。
「一人称で会社の名前を語る人がこんなにもいるなんて」と私にとっては衝撃で本当に驚きました。「自分の会社だ」という当事者意識を社員全員が100%思う会社はすごい、そう素直に思いました。
もともと「大きな企業で安定」という働き方ではなく、「おもしろいことを思いっきりやっていきたい」を軸として就職を考えていました。そうしたキャリアをリクルートでは実現できるとも考えました。
仕事は面白いからするんじゃない! 面白くするのは自分の責任
Q:これまで様々な業務を経験されてきたと思いますが、清水社長は日々の仕事にどのように向き合っているのでしょうか?
就活生の多くは「モチベーションの源泉をパワーに変えて仕事を頑張る」といった考え方をしていると思います。他方、これまでのキャリアを振り返れば私にはその「モチベーションの源泉」はありませんでした。
給料をもらっているのだから、仕事は責任をもってやり遂げる。自分のやりたいことじゃなかったとしても、社会人としての責任を持って与えられた仕事をするのは当たり前。そのように考えて仕事をしてきたからです。
やりたい・やりたくないという感情は、もちろん人間ですから生まれます。ただ、「仕事を面白くするのは自分の責任ではないか」というのが私の価値観。「モチベーションがないと仕事を頑張れない、面白くない」という考え方をしてほしくないと考えています。
「モチベーションがないから頑張れない、面白くない」でなく、「与えられた仕事を面白くする」。そうした気概を持って一見つまらない仕事にも積極的に取り組んでほしいと思っています。
Q:そうなんですね。どんな仕事でも捉え方で面白くできるというのは非常に前向きな仕事への取り組み方ですね。
与えられた業務は全てチャンスと捉えてほしいと思います。たとえつまらない仕事だとしても、それをやりたい仕事と捉えて一生懸命にやれば、その他の仕事がどんどん舞い込むようになります。
「やりたいことがあったら率先して手を挙げて仕事を任せる」という本人の意思を尊重する企業が多くあります。それが悪いというわけではありませんが、個人の仕事への取り組み方としては「やりたい仕事を任せてもらえるような人間」を目指した方が、仕事ができる人になれるのではないかと考えています。
仕事の中には、やりたくないことも多く含まれているのは当たり前のこと。だったらなんでもできる自分になっていた方が、絶対に活躍できるでしょう。
偶然的な出会いがキャリアを形成する
Q:これまでさまざまな仕事の経験をしてきたと思いますが、なぜ人材領域で起業したのでしょうか?
人材領域の中にもさまざまな課題がありますよね。しかし、それを自分の力で解決したいから起業したというわけではありません。
「プランド・ハップンスタンスセオリー」という有名なキャリア論があります。これはキャリアの8割が意図せず偶然から成り立っているというもの。つまり、偶然の使い方がキャリア形成の核となるという理論です。
私自身、就活はいわば「偶然の出会い」から始まって、その経験がなければ今のキャリアを歩んでいません。あの出会いは人生で最も重要で、欠かせないものでした。今思えば必然とも感じます。
偶然出会ったものから重要なものが形作られるのは、全ての就活生に共通するのではないかと考えています。偶然の出会いが人生を形作ってきた実感も後押しし、自ら“偶然の場”を提供する側になりたいと思い、起業しました。
Q:就活生に偶然の出会いを大切にしてほしいという思いから「DEiBA Company」を起業されたのですね。
そうですね。ただ、「偶然の出会いって大切ですよ」と教えるのは違って、自主的に就活生に気が付いてほしいと思っています。
この「自ら気が付く」という部分を大切にしているのには、母親にそう教えられて育てられたことが大きく影響しています。幼少期の頃の話ですが、母がとにかく厳しくて「悪いのは自分。何が悪かったのか考えて反省しなさい」とよく言われていました。とりわけ悪いことをしていたというわけではなくて、何か上手くいってもそうでなかったとしても、自分に責任があるという考え方です。
新型コロナウイルス感染症が拡大している今のご時世もそうですが、「運が悪くて上手くいかない」「いい企業に出会えなかった」と思う気持ちは分かります。しかし、そのせいで就活が思い通りじゃない、失敗したと考えるのは絶対に違います。
もちろんどうしようもない事情を抱えている人もいるでしょうが、基本的には自分に責任の所在があり、自分が原因です。就活はフェアですから。見ようともしなかったちょっとした偶然や、自分の行動が必ずこれからのキャリアに重要だということに気が付き、それを手助けをしたいと考えています。
企業選びに困るな!間違っていたのか・合っていたのかはあなたの努力次第
Q:就活生が悩むポイントに業界・企業の選び方がありますが、いろいろなキャリアを経験した清水社長はどのように考えていますか?
言葉を選ばずにいうと、業界を決める軸を持っていること自体が間違っていると思います。「そんなものなくていい」とも考えています。この業界がいいと絞ってしまったら、他の業界は捨てることになります。捨てる業界には、あなたにとってたくさんの偶然が転がっているかもしれません。だからこそむやみに“絞る”という行為自体をしてほしくないと考えています。
ただ1つだけ言えるのは、業界や企業の将来性は必ずチェックするべきだということです。将来性のない業界や企業で力をつけても、情勢の変化とともにそのスキルは無意味になってしまう可能性が高いからです。
新聞やテレビのニュースを見ていれば、これからどんどん伸びる業界、AI(人工知能)に取って代わられてしまう業界やサービスは自然に目に入ってくるはずです。いまは時代の流れが早いとよく聞きますが、昔から時代の流れは早かったです。成長する業界、後退する業界は、今も昔も流れるように変わっていきます。将来性の有無を見つけられないのは、誰かのせいではなく自分が時代に追いついていないと考えるべきです。
私自身、トレンドを取り入れた新たな取り組みとしてYouTubeチャンネル「DEiBA就活チャンネル」を開設しました。「採用担当者の本音」「最新トレンド」などの就活情報を配信していますが、そのコンテンツ制作も自分で企画、撮影を行っています。
Q:清水社長自ら企画や撮影も行っているのですか?
はい。全部やっていますよ。どんな仕事でもまずは全部やってみることは非常に大切だと考えています。自分にできないことを部下に任せるのは違うと思っていて、まずは自分で一生懸命にやってみる姿勢を持つようにしています。
なんでもできる自分がキャリアの一つ一つを形成してくれます。つまり、なんでもできる自分になるということが私のキャリアを形作ってきたともいえます。
Q:自分で行動を起こすというのは分かっていてもなかなかできないことですよね。上手く踏み出せないと迷っている就活生もたくさんいると思います。
新卒は特別で、どんな企業の選考にも挑戦できる権利があります。中途採用は持っているスキルや能力で行く道が制限される事実がある一方、新卒採用はとびぬけた実力や明確な将来の方向性がなくても、自分の意志で挑戦はできます。
自分の意志で入社企業を決めて、まずはそこで3年くらいがむしゃらに一生懸命全力でやってみたらいいと思います。そこで「自分はこうしたい」「自分はもっと違う方向でやっていきたい」という感情が芽生えれば、それが天職になり得ます。間違っていたのか・合っていたのかは自分次第ですから、自分で正解にしていくという気持ちで取り組んでほしいですね。
究極、どこでもいいんです。なんでもいいんです。自分の行動から出会えた偶然に、一生懸命全力で頑張れると約束できれば、最高のキャリア形成ができると私は思います。
<取材後記>
清水社長の「偶然の出会いが運命の出会いになる」という言葉にはぐっと刺さるものがありました。思い返せば、仲のいい友達、今働いている職場、そしてこうして記事を書いていることも偶然の積み重ねです。そんな偶然が今を作っていると考えると、もっと身近なものに目を向けて、自分の可能性を広げていきたいと思いました。就活生の皆さんも価値ある偶然を見つけてみてはいかがでしょうか?