キャリア講義
「働く=苦しい」ではない! 人生を豊かにするための仕事を見つけよう
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目次
VOLLECT(ヴォレクト) 代表取締役社長 中島大志さん
Taishi Nakashima●立命館大学国際関係学部卒。インテリジェンス(現:パーソルキャリア)で人材採用コンサルティングに従事。社内MVPを多数受賞、大手コンサルティングファームの採用支援を通じ、ダイレクトリクルーティングに可能性を感じ、独立。2018年にVOLLECTを設立し、以降現職。2023年には『この一冊でスカウト採用の全てがわかる!ダイレクトリクルーティングの教科書』 (扶桑社)を出版
企業詳細:コーポレートサイト
Q. ご自身の就職活動を振り返ってみると、いかがですか?
就職活動の初めは、正直なところ全く気持ちが入っていませんでした。できれば働きたくないというのが本音でしたね。
当時は「働くこと=つらいこと」だと考えており、仕事は生活のために嫌々やるものだと思い込んでいたのです。また働いている社会人がどうも「わくわく」して楽しんで働いているようには見えず、だからこそ働くことへの消極性が増していたのだと思います。
そんなことを考えながらも、もしかしたら自分にとってフィットする企業があるのではないかと就職活動を始めました。どうやって企業を見定めれば良いのかがわからなかったので、とにかく行動量を増やし、多くの企業にエントリーシートを送りました。
その結果、数カ月にわたって毎日のように3~4社の会社説明会や面接をこなすことになり、最終的には約140社と接触しましたが、結局企業の見定めはできず、何が何だかわからないままでした。当時の自分には軸がなかったんですね。
私は留年したので、実際には2回就職活動を経験しています。1回目の活動は本当に手探りの状態で終わってしまいましたが、2回目はその経験を活かして、少しはまともに進められたと思います。
特に、1回目の手当たり次第のアプローチとは違い、2回目は若いメガベンチャーを中心に企業を絞り込んだ点が進歩でした。その結果、人材系の大手企業であるパーソルキャリア(旧:インテリジェンス)に入社することができました。
Q. 就職活動から得た教訓があれば教えてください。
就職活動では多くの企業とかかわりましたが、どれだけ数をこなしても企業のことを本当に理解できた実感はありませんでした。むしろ、何もわからないままだったと感じています。
そして自己分析で自分の軸が明確になったとしても、それだけで選んでも良いのかという疑問が残ります。結婚相手を選ぶ際に、自分がどういう人と結婚したいのかが明確になったとしても、相手がどういう人なのかを明確にしないと最終的に選択する判断は出来ませんよね。だからこそ、どういう企業なのかを理解しないといけないのです。
一度目の就職活動のときも、二度目のときでさえ、当時は企業を知ることの重要性や、どうやって企業を理解すれば良いのかがわかっていませんでした。
Q. ではどうやったら企業への理解を深められると思いますか?
当時はどんな企業がいいのか見当もつきませんでしたが、今であれば企業を見定めることは出来ると思っています。それは成長している、もしくは今後成長しそうな企業を選ぶことが働くべき会社であるという軸が見えたからだと思います。
就職活動で会社を選ぶ際、給与や福利厚生、チャレンジできる環境、優秀なメンバーがいること、社員教育に力を入れていることなどの基準があり、これらの基準の多くを満たしている会社が魅力的に感じるはずです。これらの条件を満たすためには「その企業が成長しており、今後も成長が期待できる」という点が大前提であることを、社会人になってから学びました。
しかし、成長性を知るには、それを見極める方法を知っていなければなりません。そのための一つの方法が3C分析だと思っています。社会人にとっては当たり前の「3C分析」というフレームワークを学生時代に持っていれば、もっと企業を深く理解できたのではないかと思いますね。
有名なフレームワークなので説明するまでも無いかもしれませんが、3C分析とは、顧客(Customer)、競合(Competitor)、自社(Company)の3つのCを意味するフレームワークで、企業がどのような市場や顧客を相手にし、どのような競争相手と戦い、どのような強みを持っているのかを評価するための手法です。
企業ごとにこの3つのCを整理することで、成長する理由を把握したり、今後成長が期待できるかどうかの根拠を持つことができるのです。もちろん、企業分析をするためのフレームワークは3C分析以外にも沢山存在していますが、最もわかりやすく、かつ重要なポイントを押さえられているのが3C分析だと思います。
ですので、自己分析をおこなったうえで、自分の好きなことや興味があることに加えて、成長する企業かどうかを判断する視点を持って就職活動をしてほしいですね。
このポイントを理解するかしないかで、今後の人生が劇的に変わると思っています。だからこそ、自分が就活生のときに誰かに教えて欲しかったですね(笑)。
働くことが目的ではなく「人生を豊かにするために働く」という気付き
Q. 「仕事=つらい」考えはどの時点でどのようにご自身の中で変化しましたか?
就職するまでに、仕事観が大きく変わるきっかけになったのが留学でした。アメリカのボストンに留学した際、現地の同世代の価値観に強い衝撃を受けたのです。
ボストンには、ハーバード大学やマサチューセッツ工科大学といった世界を代表するエリート大学があり、その学生たちと話す中で、彼らの仕事に対する考え方は日本と大きく異なっていたのが印象的でした。
たとえば、日本では、エリート大学を卒業して一流企業や官庁に入り、出世街道を進むというのが一般的なイメージかもしれませんが、彼らの中ではそうした考え方を持つ学生はむしろ少数派でした。
ある学生は「自動車のドライバーをしながら、好きなことをして生きていきたい」と言い、「金融コンサル? そんな仕事をして楽しいのか?」と疑問を投げかける人もいました。また、月に20万円も稼げれば十分だとして、休みの多い仕事を探し、その自由な時間をパーティーや旅行に費やす人もいましたね。実際、名門大学を卒業してタクシードライバーになった友人もいます。こうした「仕事のための人生など論外」といった考え方は、当時の日本ではほとんど見られなかったものでした。
さらに、ホームステイ先のホストファミリーからも大きな影響を受けました。ある時、仕事や職業についての話をしている中で「何のために働くのか」とホストファザーに尋ねたところ、「大切な家族のために働いているし、家族と過ごす時間が最優先事項だ。今幸せにならないでいつ幸せになるんだ。人生は有限だよ」という、はっきりとした答えが返ってきました。それは非常に新鮮で、目からウロコが落ちるような経験でしたね。
限りある一度きりの人生において、「働くことは目的ではなく、自分の人生を豊かにするために仕事があり、自分らしく生き生きと働くことで、さらに仕事は人生を豊かにするものだ」という考え方が心に深く刻まれました。
日々苦労することが大人で、毎日楽しくありたいと純粋に思うのは子どもだという価値観はなんとなく日本に残っている気がしていますが、留学を通じてこのような考えを変えられたと思います。毎日楽しむことの何が悪いのかと。結局人生は楽しんだ者勝ちだと思いましたね。
Q. では、ファーストキャリアは新しい仕事観や価値観に基づいて選んだということですか?
留学経験によって、確かに自分の仕事観に影響を受けたことは間違いありません。その意味では、「働くをたのしもう」というパーソルの当時のキャッチフレーズに強く惹かれたのが、選択の決め手だったことは確かです。
ですので、私の中で仕事や働くことに対する価値観が以前と比べて変わっていたのは間違いないでしょう。少なくとも、一日に7〜8時間は仕事をすると思いますが、人生の4分の1を費やす仕事の時間すら楽しくなれば最高の人生になると、そう思いました。
Q. パーソルに入社してからVOLLECTを創設するまでの経緯を教えてください。
パーソルには約5年間在籍しました。入社2年目に人材紹介事業に従事していた時、初めてMVP賞を受賞しました。その際、尊敬していた先輩から「それ、お前じゃなくてもできたんじゃないか?」と指摘されたことがありました。
悔しさとともに、確かにその通りだとも感じましたね。自分が成果を上げられているのは、会社が築いた枠組みや看板の力によるもので、それが大きな後ろ盾となっていたことは否めません。
そこで、いずれはその後ろ盾がなくても、自分にしかできない仕事をして、新しい価値を生み出せるようにならなければならないと気付きました。この気付きが、後の独立起業につながったのだと思います。
もちろん、これだけが起業した理由ではないですが、印象に残っている理由の一つですね。
Q. 独立起業はすんなりできたのですか?
もともと起業には関心があり、大学時代に、ビジネス体験ができる米国ハリウッドのNPO法人に参加し、ゼロから資金を集めて起業するトレーニングを受けていました。
また、パーソルでも新規事業を任されるような立場になっていたこともあり、ある程度の自信は持っていました。それでも、もちろん先行きに対する不安はありましたが、退職の決断は比較的早くついたと思います。同年代でスタートアップを立ち上げて活躍する人たちも目にしていたので、「早く自分も」という思いが強かったですね。
良い人の周りに良き人材が集まる。
Q. 次に、これから求められる人材像についてお考えを聞かせてください。
良い人間の周りには自然と良い人間が集まります。ですから、良い人間関係を築ける人は、自分が他者にとって良い人であるからこそです。社会や企業もこのことを理解しており、良い人を求めています。
では「良い人」とはどういった人間なのでしょうか。まず第一に、自責の精神を持っていることが重要です。物事の結果を常に自分事として捉え、自らの行動や結果に責任を持てる人であるべきです。
次に、GIVEの精神を忘れず、他人を思いやる利他的な姿勢を持つことも必要です。そしてもう一つが、目の前のことに真摯に取り組む実直さを備えていることです。
Q. 実直というのは正直という意味ですか?
少し違います。パリオリンピックで活躍するアスリートを見て改めて重要性を再認識したのですが、メダリストたちは、圧倒的な努力を愚直に続けてきた人たちばかりです。
実直に努力し続けることほど難しいことはありません。しかし、逆に言えば、それができる者こそが他者との違いを生み出す力を持つのだと思います。愚直にやり続ける中で、もう辞めたいと思うタイミングは何度も訪れます。実際に、相手に勝ったり成功する機会よりも、負けたり失敗する機会の方が圧倒的な割合を占めるのが一般的です。
それにもかかわらず、失敗し続けると自分の中の自信は崩壊していく。それでも続けようと思える人は非常に珍しいのです。アイデアや地頭、コミュニケーション能力などが成功にとって重要だと思われやすいですが、それではなく愚直にやり続ける事こそが最も成功に近づける方法だと思います。だからこそ「実直」という概念を当社では大切にしています。
自責、利他、実直の3つは、私自身が社会人経験を重ねる中でずっと大切にしてきた価値観であり、会社の行動指針にもしていますね。
好きで仕事を選ぶより最終的には「誰と働けるのか」を見極める方が大切
Q. 先ほどの「良い人の周りに良い人が集まる」という前提は、会社選びにも応用できそうですね。
仕事において何が最も重要かを考えると、結局は「誰と働きたいか」という視点の大切さに行き着くことが多いです。この前提が満たされないと、幸せに働くことは難しいでしょう。
「この人と働きたい」という考えは、おそらく「自分もそうなりたい」と少なからず思っているからです。だからこそ、一緒に働きたいと思う人と働くことで、自分自身を高めることもできます。それが、先ほどお話しした「良い人」になることにつながり、結果的には良い環境で働くことに結び付くのではないでしょうか。
よく「好きなことを仕事にしたい」と考える人もいますが、個人的にはあまりおすすめしません。「好き」という感情は時間と共に変わることがあり、急に冷めてしまうこともあるからです。
むしろ、好き・嫌いではなく、得意・不得意で考えてみるのも一つの方法です。得意なことは、そう簡単には変わりませんし、それに取り組むことで成果も出やすく、周りから褒められる機会も増えます。自然と好きになっていくはずです。
自分が何をしたいのかわからない場合は、どんな人と働きたいか、自分は何が得意なのかを考えてみるのも一つの方法です。
Q. 最後に就活生たちに対してアドバイスをいただけますか?
仕事を楽しもうと言われても、そう簡単に楽しめないということも理解しています。正直、一人前になるまでは、楽しいと思える機会は多くないと思います。
それでも、自分次第で仕事は楽しくなるものだと考えることを諦めないでください。
それを諦めた瞬間に自分の人生を豊かにすることが難しくなります。良い人生とは、生涯でどれだけ多く、楽しさや幸福感など、ポジティブな感情を感じられるかだと思います。人生の多くの時間を費やす仕事が「楽しくないもの」「出来るだけやりたく無いもの」という認識のままでは非常に勿体無いと思うのです。
すべての仕事が楽しいとは言いませんが、楽しいと思える仕事を探す努力は必要だと思いますし、今取り組んでいる仕事をどう楽しめるのかを追求することも大切です。追求しているうちに、自分の仕事が誰かに賞賛されたり、誰かの役に立ったりすることに繋がり、感謝されることで、いくらでも仕事を有意義なものに変換することができます。
仕事をしなくても生きていける人は、仕事を楽しむことすら必要ないのかもしれませんが、そんな人は稀ですし、仕事しなくても生きていけるようなお金持ちこそ、本気で仕事をしている事実を忘れてはいけません。仕事というもの自体に何かしら人生を豊かにする要素が含まれているんだと思います。
「仕事=つらい」という時代ではありません。人生を豊かにするために、今仕事をするのです。人生を豊かにできないと思えば仕事を変えればいいので、あまり思いつめず、自分らしく働ける企業を見つけてください。