キャリア講義
「やりたいコト」がないのは当たり前。やりたくないを言語化して裏返そう
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目次
Branding Career(ブランディングキャリア) 代表取締役CEO 佐地良太さん
Ryota Saji・慶応義塾大学を卒業後、リクルートへ新卒入社。人事を経験したのちに、法人営業へ従事。全社TOPセールス表彰などの実績を多数挙げたのち、フリーランスとしての独立やスタートアップ子会社代表などの経験を経て、2017年に自身が代表となる「Tanpan&Co.」を設立。その後、人材事業の事業譲渡によりTWOSTONE&Sonsへジョイン。人材紹介事業の責任者を経て、2024年にBranding Careerの代表に就任し、現職
企業詳細:コーポレートサイト
TWOSTONES & Sons100%子会社であるBranding Careerの代表取締役CEOを務める佐地さんですが、どのような就活でファーストキャリアをスタートしたのですか?
就活の時点では、自分のなかに「何かをやりたい」という明確なものがありませんでした。ですから、やりたいことを見つけるためのファーストキャリアに就くというのが私の就活の軸でした。それに加え、漠然と起業には関心を持っていたので起業に役立つ経験を積みたいという、その2つを軸に据えました。
やりたいことを探すにはいろいろな業種・業界を見られる方が良い、そう考えてたどり着いたのが、HR(ヒューマンリソース)系のセールスの仕事でした。人的資源はどんな企業にとっても重要な経営資源ですから、HR系のセールスでいろいろな企業を訪れて、幅広い業界について深い部分まで知ることができそうな気がしました。また、もともと「人」に興味があったことも理由としてありましたね。
なおかつ業界大手であるリクルート出身者には起業家が多いのを知っていたので、自分が見据えていた2つの軸に合うと考えてリクルートグループのHR系子会社であるリクルートエージェント(現リクルート)への入社を目指しました。
Q. 目標のファーストキャリアを手に入れた結果、そこでやりたいことは見つかりましたか?
リクルートエージェント(以下、リクルート)では、その後のキャリアを支える多くの力を手に入れました。入社直後にリーマンショックが起きて世の中は大不況になり試練を強いられながらも、環境を言いわけにせずに仕事に取り組む重要性を身をもって体験しました。
また最初のうちはいつも「これは何のためにやるんですか?」と職場で聞いてばかりいる面倒くさい新人でしたが、先輩に「理屈は後にしてさっさとやれ」と一喝されさらに「とにかくやり切れ」と励まされ、実行力が鍛えられました。
自分でも成長できたと実感でき、最後に目標としてやり残していた全社トップセールス表彰も獲得できたので、約6年でリクルートでのキャリアに一区切りをつけましたが、その時点でもまだ本当にやりたいことが明確ではなかったですね。それが見つかったのは独立してフリーランスになってからでした。
年収5,000万円を捨てても手に入れたかった学びと成長
Q.会社を辞めて独立してすぐにやりたいことは見つけられたのですか?
すぐにではありませんでした。リクルートで身に付けた実行力を携えて独立し外資系生命保険会社の外交員として活動しましたが、独立2年目にして生命保険業界の全営業のTOP5%の基準(MDRT)をクリアし、個人事業主としての年収も5,000万円の目標を達成。この仕事を続ければ年収1億円が現実的な段階まで来ました。
ところが自分の幸福な人生の道筋が見えてくると、これ以上同じ道を進み続ける意味が自分のなかで薄くなり、逆に周りの人を幸せにする方が意味のある人生ではないかと思えてきました。自分を成長させるためにも、同じことを繰り返していても学びがないし成長もないと感じるようになったわけです。
ちょうどそんな時期にターニングポイントになる出来事がありました。歯学部を卒業して研修医を終えた同級生と地元で飲んだ時に、彼から「本当は歯医者にはなりたくないんだよ」と告白され、その瞬間に稲妻が落ちたかのような衝撃を受けました。
私が卒業した名古屋の中高一貫校は卒業生の約2割が歯科医だし同級生も普通に歯科医になりたかったのだと信じていましたから彼の告白に驚きました。同時に、本当に自分がやりたいことを見つける難しさや、そこを妥協してキャリアを歩む人がとても多い現実を知ったように思います。
その体験があったからこそ「仕事やキャリアの悩みを持つ人を1人でも減らすことが自分の使命だ」と自覚し、キャリアコンサルティングという自分の天職を発見した思いでした。
Q.多くの就活生にも共通する課題ですが、やりたいこと探しは簡単ではないのでしょうか?
ファーストキャリアから16年以上にわたり人事・人材系の仕事をしてきました。リクルートで新卒採用を担当していた時代には年間2,000人の学生と会ったこともありますし、多くの就活生の話を聞いてきましたが、やりたいことがない就活生が99.9%。本音ベースでやりたいことがあるのは1,000人に1人か2人くらいの体感でしたね。
やりたいことがないのは若者にとって普通のことです。
Q.ほとんどの人がやりたいことがないまま就活しているのですね。
私はやりたいことの前に、「人はなぜ生きるのか」に悩み続けました。大学に入学はしたものの学部の授業になじめず、「何のために大学に入ったのか」から始まり「自分は何のために生きているのか」と自問自答し続けました。こじらせて、うつになり追い込まれましたが、あるとき「これだけ考え抜いても答えが見つからないのだから、答えなんかないんじゃないか」と吹っ切れました。そこからは「せっかく生まれてきた人生なのだから、毎日楽しく生きたいな」とシンプルに考えられるようになりました。
それで何とか就職し会社の仕事で結果を出すことができ、独立して経済的な成功にも自信を持てるようになった頃に、先ほど話したターニングポイントとなる出来事に遭遇したわけです。
つまり大学時代には、うつになるほど人生について自問自答し、仕事を通じて誰もがやりたいこと探しに悩んでいることを知り、最後に身近な友人から仕事に関する思いがけない告白を聞いて、その3つが頭のなかで一気につながった。それは一瞬でしたが、学生時代から続く長い助走の末にようやく“キャリアコンサルティング”という「やりたいコト」に気づくことができたのです。
やりたいことが見つからない人は「Will-Can-Must」で考えてみよう
Q.そういう経験をしたうえで、「やりたいコト」を見つけるためにはどんな方法が良いと思いますか?
役に立つと思うのはリクルートでも教えられた「Will-Can-Must」の思考方法です。「Will-Can-Must」のWillは将来に「何をしたいか/どうありたいか」、Can は「自分は現在何ができ何が強みなのか」で、Mustは「自分が何をやるべきで周りからは何を求められているか」です。この3つの重なる部分にこそ、やりたいコトや就くべき職業が存在しています。でも、そもそもWillがわからないから悩んでいる人も多いですよね。
Willを知る良い方法があります。それは、「したくない/ありたくない」は何かを考えること。何をしたいかよりも「したくないこと」の方がわかりやすいからです。
Q.確かに「したくないこと」の方が、気持ち的にも強く感じるかもしれませんね。
英語だとNever wanna doとかNever wanna be。したくないことの方が、やりたいことより言語化しやすい面もあります。普通に生きていたら誰でも嫌な出来事や、苦手な人間に出会った体験が思い浮かぶでしょう。それを言葉にしてみる。言語化した「したくない/なりたくない」を逆さまの言葉に置き換えてみれば「やりたいこと」「ありたい姿」が見えてきます。
感情を揺さぶられる体験、それも負の感情に基づくもの。嫌だとか怒りとか悲しみ、苦しさ、恥ずかしさの体験は、大きな力になります。負の感情をともなうハードな出来事がこれから将来実現したいことのテーマになります。
大切なのは自分から動いて原体験を増やすこと
Q.自分にとってハードな経験も、それは意味ある経験になり得るわけですね
その通りです。人間は知らないものは判断できません。原体験がないと判断基準もできないからです。とは言え感情を揺さぶられるような原体験は計画的に増やせるわけではないので、小さくても軽くても良いから多くの原体験を増やせるように心掛けることをお勧めします。
Q.どのように原体験を増やしていくのが良いでしょうか?
いろいろ動いてみること。多動が大切です。経験したことがない事柄をつぶしていく。広く浅くかじってみる。とりあえず経験値ゼロが経験値1になる事柄を増やすことが大切です。それも自分の五感で確かめるのが良い。そういう意味で「書を捨てよ、家を出よう」と言いたいですね。
学生には時間があるし、今だと隙間バイトが簡単に見つかるアプリもある。さまざまな仕事体験ができるしインターン制度もありますから、今の学生さんは、望めば原体験を増やせる環境がかなり整っていると思います。
Q.「やりたいコト」が見つかった佐地さんは、その後、スタートアップに参画したり自分の会社を起業したりしていますが、それぞれどういう思いだったのでしょうか?
キャリアコンサルティングという天職は見つけたけれど、考えてみたら自分自身は転職した経験がなかった。それから次の成長を目指すならフリーランスとしてではなく組織として仕事をしてみる必要があると考え、女性のキャリア支援をおこなうスタートアップに役員として参画しました。
Q.フリーランスから組織に属する働き方に戻るのは抵抗がなかったのですか?
特に抵抗はありませんでした。転職を経験することが第一目標でしたし、その次は起業も考えていたので改めて会社組織を学んでみたい気持ちもありました。ただし、周りからは結構稼いでいたフリーランス時代より年収が大幅ダウンすることを心配されましたが。
そうしてスタートアップに参加しましたが、思ったよりも成長実感を感じられず、何のために高い給料を捨てたのかがわからなくなってきました。フリーランス時代との年収差、約4,000万円×2年が成長のための「授業料」だとすると、ちょっと高いなと。それでTanpan & Co.を起業しました。
スタートアップでの2年間や授業料を、無駄とか損とは思いません。当時の人脈や経験値は後になっても生きていますし、人事・人材系の仕事を通じて多くのビジネスパーソンを見てきましたが、自分に投資をしない人は大きなリターンを受けていないと感じているからです。
ジャンプする前には、いったんしゃがむ必要があります。高みを目指すなら助走は必要。それが多くのキャリアを見てきた実感です。
成長のための外圧をかけてくれる会社を選択しよう
Q.企業選びに必要な考え方を教えてください。
企業選びの際には、自分が成長できる環境を選択すべきだと考えています。その視点で考えてみますが、そもそも成長って何でしょう。
色んな解釈があると思いますが、私は3つの要素があると考えています。それは、できなかったことができるようになること、自分の長所を伸ばし短所を減らすこと、そして自分の目指す姿に近づくことです。
ここではとくに自分の長所を伸ばし短所を減らすことの話をしたいのですが、長所は適性に合った仕事の環境があれば勝手に伸びていきます。しかし短所を減らすには意識して自分に外圧をかけないと難しい。なぜなら、育った環境やDNAレベルで刻まれている要素が二十数年かけて頑固にこびりついているからです。これをはがすにはかなり外からの圧力が必要ですから、意図的にストレスをかけてくれる会社が望ましいと思います。
私の場合は実行力不足、頑固すぎるといった短所をリクルートで鍛え直してもらったおかげで成長できました。短所をフィードバックされ周りが「直せよ」と外圧をかけてくれました。もちろん「成長したくない」就活生もいますし個々の考え方を否定しません。あくまでも、成長しない人生から幸せは得られないという私の考えを前提とした企業選びの話です。
Q.最後に、社会に出て活躍できる人、仕事で活躍できる人の共通点を教えてください。
結局は“人間力”が一番重要だと思います。キャリアは2階建てで構成されています。家づくりにたとえれば人間力は1階の部分で、家を支える土台になります。そのうえの2階部分にあるのが専門性やスキルなど。1階がしっかり支えないと、2階がぐらついてしまうのと同じように、人間力が高くないと専門性やスキルが充分に発揮できないわけです。
Q.人間力は仕事力でもあるのですね。
もちろん専門性やスキルを磨くのも重要ですが、仕事をしていくなかで自然に身につくものでもあります。ですから若い皆さんには意識して人間力を鍛えていただきたい。
人間力は5つの要素で構成されます。熱意、能力、考え方、タフネス、知識・情報です。
熱意とはやる気、元気、ガッツ、モチベーションといった類のものです。能力は3種類あって、考える力・実行する力・それを伝達するコミュニケーションの力です。考え方は物事へのスタンスの取り方、物事の捉え方のことです。これは頑固か柔軟か、楽観的か悲観的かなど、人それぞれの思考の癖のことです。
タフネスとは心身両面、つまりフィジカルとメンタルが両方とも充実していること。そして知識・情報は言葉そのまま。ITの進化で個人が差別化するのが難しい面はありますが、ITを駆使してどれだけ効率的に情報収集できるかで大きく差がつきます。
この5要素を高いレベルで揃うように努力することが、活躍するための条件だと思います。人間力というと漠然としてしまいますが、それぞれの要素を日々意識することで仕事力も向上するはずです。ぜひそうやって充実したキャリアを歩んでいってください。