キャリア講義
相手の期待を120%超えることが成長へのカギ|今のレベルで自分の未来を決めつけるな!
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目次
鶴田 浩之 さん(CODE GYM 代表取締役CEO)
Hiroyuki Tsuruta●1991年長崎県諫早市生まれ。13歳で初めてプログラミングに触れ、大学在学中の20歳でLabitを創業。大学生向けのスケジュール管理サービス「すごい時間割」を開発、2014年にリクルートキャリアへ事業売却。2014年にはゲームエイトを設立、2016年には渋谷・道玄坂に書店「BOOK LAB TOKYO」をプロデュース。2016年には本に特化した日本初のバーコード出品フリマアプリ「ブクマ!」を開発、翌年にIPO前のメルカリに参画し、グループ会社執行役員に就任。2019年にCODEGYM(旧LABOT)を設立し、現職
Q.鶴田さんは13歳の頃から事業を始められてきたのですね。
そうですね、ただ「起業したくて起業した」というわけではありません。好きだったゲームを作ってみたいとか、Webサービスが作りたいと思って調べた結果、プログラミングという、好きなことをしていたら仕事になったという感覚です。
もともと幼い頃はぜんそくなどで身体が弱く、不登校も経験して家で引きこもりがちだったのですが、プログラミングでサービスをつくったり自分から何かを発信したりすることで社会とのつながりを見いだせるようになりました。そして「自分で頑張った分だけ返ってくる」ということ、良い大学に行って良い組織に入るという世界観とはまったく違う生き方を考え出すようになったのもその頃です。
16歳になった頃には年収も大幅に増え、親の扶養から外れて所得税を納めるようになったので、ビジネスを意識して活動するようになりました。
Q.そんな幼い頃からビジネスパーソンとして動かれていたのですね。
ただ、お金を稼ごうと思ってやっていたらうまくいっていなかっただろうとは思いますね。好きだからこそ続けられたのだと思います。
ちょうどあの頃はmixiなどのインターネットサービスが普及してきた頃でしたから、自分が使う側としてさまざまなサービスやアプリに触れることが楽しくもありました。また、学校では不登校でクラスに馴染めていない一人の生徒なのに、家に帰ってPCを開けば月間500万人に情報を提供している。そのようなギャップにおもしろみを感じたことで、勉強意欲も興味も沸き続けてきたのだと思います。
Q.ちなみに、これまで提供してきたサービスのアイディアとはどこから湧き出てきているのですか?
幼い頃につくったものは、完全に自分の趣味や好きなことからですね。人並みにゲームで遊ぶことが好きなので、同じゲームのプレイヤー同士の交流サイトをつくりました。
私のポリシーは「自分が欲しいものをつくる」から始まりました。ものをつくる人に多く共通することではありますが、世の中のちょっとした不便なことを解消したい・こういうのがあればおもしろいのではないかと思ったものをつくり、リリースしています。
起業家としてビジネスを緻密に設計してお金を稼ぎたいというよりは、ものづくりを通じて新しい価値観を世の中に提供して、つくったものを数多くの人に触ってもらいたいというモチベーションのほうが強いですね。
「現状のちょっと先」を考えて、誰かの課題を解決すること。仕事へのスタンスは一貫して変わらない
Q.当初は自ら事業を立ち上げられた鶴田さんですが、一度M&Aである企業に入社をされていますよね。経営者と従業員との違いは何か感じられましたか?
経営者には休みの概念がないのですよね。いつでも休めはするものの、結果を出さなければならないので頭の中は休めない。でも従業員として企業に属してはじめて土日の休みを体験したり、成長企業の福利厚生の仕組みを実感したりすると、企業という、働くための仕組みが整っていてあらゆる障害なく働けることの素晴らしさも実感しましたね。大きな企業は本当に素晴らしいと思います。
Q.13歳からキャリアを形成してきて、仕事に対する考え方はどのように変わってきましたか?
一貫しているのは、ビジネスとは誰かの課題を解決することに対する対価としてお金が発生するのだということ。自分がこれまでおこなってきたアプリ開発にせよメディア開発にせよ、そこは変わりません。
ただ、最初の頃というのは仕事についても社会についても何もわかっていなかったので、あの頃は衝動的にものづくりをしていたように思います。その結果、衝動的にやってもあまりうまくいかないということを学んだので、今はすでに世の中にある仕組みやサービスのちょっと先のものを考えて計画的にものづくりをしようとは思っていますね。
あとは自分はものごとを立ち上げるプロセスが好きだということもよくわかりました。元来飽きやすい性格なのもありますが、かなり育ったサービスをそこからさらに上げていくよりも、新しいサービスを0から始めるほうが好きですね。だからこそ結果的にM&Aを繰り返して、何度も起業を経験しているのかもしれません。そのスタンスも変わっていないですね。
Q.育ったサービスをもっと育てていけば、たとえば今後今よりも多くの稼ぎがあるかもしれませんよね。手放すことはもったいないとは感じないのですか?
たしかに少しもったいないのかもしれません。けれども、たとえば今後自分の生み出したサービスが大企業の傘下でさらに伸びていってくれればそれが誇りになります。自分の生み出したサービスがより多くの人に使われると、その創業にかかわったメンバーとして私は非常に誇らしくなりますね。
Q.でしたら、鶴田さんにとっての充実しているキャリアとは何かについてもお伺いしたいです。
私は一緒に組んで事業やプロジェクトをおこなうメンバーと過ごす時間が好きです。
自分たちのチームでつくったサービスが多くの人に使われ、それによってお給料が生まれ・上がり、たとえばチームメンバーで仕事終わりに飲みに行く。そういったたわいもない時間を過ごせたり、あとは企画・開発からのプロセスを経て物事が成功するという成功体験の共有をメンバーとできているときですね。こういったときに非常に充実感を覚えます。
10代の頃は一人でものづくりをやっていました。「できた!」「成功した!」と思っても、この感情を誰にも共有できず、ずっと寂しかったのですよね。私はあまり仕事とプライベートを分けていないので、仕事だけにかかわらず人生のさまざまな面でチームメンバーに囲まれながら過ごすのがとても充実したキャリアなのだろうと思っています。
経験を積んでから徐々に「やりたいことの答え合わせ」をしていこう
Q.学生がこれからファーストキャリアを踏み出すにあたって、持っておくべき考え方や心構えなどについてご意見をお伺いしたいです。
学生からよく聞く声が「やりたいことがわからない」。しかし、やりたいことがわからないのは当たり前のことだと思っています。私も当時は仕事としてやりたいことなんてわかりませんでした。
やりたいことが明確な人のほうが珍しいといっても過言ではありませんから、やりたいことがわからないことで悩んだり、卑屈になる必要はありません。
好きなこと・やりたいことを仕事にできるのはとても幸運なことであり、新卒からそんな仕事に従事できるのは非常にレアケースです。だからこそ、きっかけとしては得意なことを軸にした仕事にするべきだとお話ししていますね。あなたにとってほかの人より少しばかりできることを冷静に探してみたほうが絶対に軸になりやすいと思います。
Q.たしかに、特にこの昨今の学生は「やりたいこと」を見つける機会すら少なくなっていますよね。
そうですよね。私自身、30歳になってから初めて「うすうす感じていたけれど、自分は教育に関することがやりたかったんだ」と気づきました。これはいうなれば「やりたいことの答え合わせ」ですね。私でも10年以上経って、30歳になってやっとやりたいことがわかり答え合わせができました。だから、学生のうちからやりたいことがないのはおかしいことではないと思います。
そしてこの「やりたいこと」とはロジカルに考えても見つかるものではありません。だからこそまずは得意なことベースに仕事を進めて、できることの中からやりたいことを発掘していけばいいのではないかなと思っています。
Q.仕事選びにおいて絶対に根底に置いておきたい考え方ですね。
はい。あと、企業選びという点においては、そもそも学生は就職・会社に所属することを大きく考えすぎなのではないかと思っています。今は転職もすぐにできる時代ですし、新卒で入社する企業も、これから描く長いキャリアのうちの1つの企業に過ぎません。
ファーストキャリアにこだわりすぎるなということもよく学生に伝えていることですね。
Q.とはいえ、ファーストキャリアは非常に重要ではないでしょうか。
重要かもしれませんが、現在の自分が考える「未来の自分」は、今の自分の経験値、知っていることの範疇でしか考えられないものです。現在の自分にとっては最高だと思う見積もりでも、3年後の自分のレベルからすると最低の見積もりだったかもしれません。「今」は経験が低く、常識も知識も浅い状態ですから。
3年後に立てる未来の仮説はもっと変わっているべきです。だからこそ、短いサイクルで近い将来の目標はどんどん変えていくべき。そう考えると、1社目で人生が決まるとか、名の知れた大手に行けなかったから人生絶望、なんてことはまったくありません。言ってしまえば30代でも学び直しが利く時代ですから、社会が要求する自分の固定観念だけで決めつけないでほしいですね。
上司にサプライズを! 相手の期待を超えることが成長につながっていく
Q.かといって、「ここはとりあえずで入った会社だから」と日々を過ごすのは良くないとも思うのですが、働くうえでどの場所でも共通して持っておくべき心構えとはどんなものでしょうか。
俯瞰して自分の人生を楽観的に捉えるべきということと、日々の仕事に手を抜くことは別の話です。これは私の中でシンプルな答えがあって、「相手の期待を超え続けろ」ですね。相手に期待されていることを120%で応え続ければおのずと成長していきます。これは「相手にサプライズを」と考えると良いですね。
私は幼い頃からサプライズが好きで、「なんで⁉」「まさか!」と相手が驚き喜んでいる姿を見るのが好きというのがベースにあります。それを仕事を通じて上司に経験してもらおう、という話ですね。「お前ここまでやったのか⁉」「え、もうできたの!?」と驚かれたら、ちょっぴり嬉しくないですか。
スタートアップ企業で重宝されている人の特徴の1つに、落ちているボールに気づいて、それを拾ってやってくれる人というのが挙げられます。こちらが想像もしていなかった動きをしてくれる。会社において「結果を出す」ことは少し難しく感じるかもしれませんが、その初手としてまずは常になるべく相手が想定していることよりも少し上をいくことから始めると良いと思います。
Q.具体的に、どのようなことが「少し上をいく」にあたるのでしょうか。
はやさにおいても、内容の充実度においてもですね。納期より早く、そのために速く終わらせること。
また内容を充実させるには、その依頼の背景にある真のニーズってなんだろうと創造して把握するといいと思います。部下である自分に振られた仕事って、ある程度分解されたタスクのうちのひとつだと思うのです。分解前の仕事に思いを馳せたときに、そこには必ず真の意図があるはず。その真の意図を達成するために、与えられたタスクそのものにはあまりかかわらないけれども、別の情報を付随させるなどができそうですよね。
本当のニーズを知って、そのタスクそのものを速く・完璧に仕上げるだけでなく先回りして動く、といったイメージですね。
Q.難しそうですが、それは確実に成長につながりそうですね。
最近は「静かな退職」という言葉を耳にするようになりました。
静かな退職…与えられた以上の仕事をせず、必要以上に一生懸命働くのをやめること
時代の変化というのもあるでしょう。今の時代の人からするとそれが理想の働き方で、私自身それはそれでいいと思っています。このように仕事を仕事として割り切るのか、それとも仕事を人生の一部の大事な時間として考えるのか。仕事を、自分の体力や寿命と引き換えにお金を得るものとすると仕事はただただ「消耗戦」となってしまうと思います。
捉え方は人それぞれですし、従業員として当たり前の権利を主張し、働くなら、期待させない・期待しすぎないという今の働き方のトレンドにも賛同します。しかしせっかくなら、人生で多くの時間を占める仕事を通じて、成長したり自分の新しい側面に気づけるほうがいいのではないかと思うのです。
Q.これまでのお話も踏まえて、今後社会で伸びていく人材・需要が高まる人材とはどのような人だと思いますか?
学び続ける人ですね。大人になっても何歳になっても学び続けられる人。ここでいう学ぶとは、仕事で使うスキルを高めたりすることだけでなく、コミュニケーション力などの見えないスキルを高めていくことや、過去の成功体験を忘れてアンラーニングして、新鮮になって向き合うという意味も指します。
今、時代はものすごいスピードで変わり続けています。その分愚直にその時の「新しいこと」を常に学び続けることが必要になるでしょう。仕事と直接関係がないことだったとしても、学び続けるという姿勢そのものが社会で活躍する人物像をつくり上げていくと思いますね。趣味でも何でもかまいません。いろいろなことからヒントを得て、好奇心をもって新しいことにどんどん飛び込んでみてほしいです。