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鉄道業界の志望動機は業界・企業理解の深度で差がつく
子どもの頃から電車が好きで、そのまま就活でも鉄道業界を志望するという学生も少なくありません。しかし、ただ鉄道が好きであるという理由だけでは志望動機として弱いのは確かです。好きであることを主張するのは大切なことですが、それだけを中心に据えた志望動機では、多くの応募者のなかに埋もれてしまいます。
結論として、鉄道業界を本気で志望するなら「好き」や「憧れ」だけではなく、事業やビジネスモデルを理解したうえでの志望動機も必要となります。そのためには、鉄道業界の課題や実態、そして各社のビジネスモデルを知っておく必要もあるでしょう。
この記事を参考にすれば、鉄道業界の実態や課題を知り、現状だけでなく将来の展望を踏まえた志望動機が作れるようになりますよ。
志望先の参考にしよう! 鉄道業界の分類とそれぞれの課題
鉄道業界の企業は、大きくJR、私営、公営、第三セクターの4つに分けられます。
少しずつ業態も企業の課題も異なっているため、これらを研究して志望先を決めることで、自分だけの志望動機を作るのに役立ちますよ。
また、当然ですが、ある企業を志望するなら、その企業が属する業界の研究は必要不可欠です。特に鉄道業界は上記のように会社の分類が決まっており、ほかの業界と比較しても業界研究がしやすいという特徴があります。そのため、業界研究を疎かにしてしまうと選考に対する準備不足が伝わってしまい、面接で十分な評価が得られない可能性があるりますよ。
この章で各分類に属する企業の特徴と課題を確認して、志望先の参考にするとともに、憧れだけではない志望動機を作るために活用してくださいね。
①JR:混雑緩和や安全面への対策が急務
JRとは「Japan Railways」の略称で、かつては公営であった日本国有鉄道が分割・民営化された企業です。
おもな企業は以下のとおりで、下記6つの旅客鉄道会社と一つの貨物鉄道会社を指して「JRグループ」と呼ぶこともあります。
各社ごとに独立した会社であり、それぞれの地域に適した独自経営をおこなっています。ただし、JR北海道・JR四国・JR貨物は独立行政法人が全株式を保有しているので、完全な民間の会社と言い切るのは少し難しいため、これらについて話す際は覚えておきましょう。
2023年度の決算によると、JRは運輸事業による収益が増益に転じており、コロナ禍の影響をほとんど払拭できたといえます。すなわち、ここで紹介する4つの分類のなかで、JRが最も安定的に運営されているといっても過言ではありません。
JRが抱える課題は、経営課題よりもむしろ鉄道としての利便性や安全性の向上がメインです。
②私営:過去のビジネスモデルから脱却が必要
私営は、完全に民間企業が運営している鉄道会社を指します。
おもな会社は以下のとおりです。
これらは旧財閥を出自とする大型の企業グループであることが多く、鉄道事業を中心として不動産やレジャー、百貨店などさまざまな業態をもっているグループ企業やその一員であることが大きな特徴です。
そのビジネスモデルは、百貨店・レジャー施設・大規模マンションなどの不動産といった人が集まる施設を作り、そこへ鉄道を通して人を運ぶというものでした。
現在の課題はまさに過去に成功してきたこのようなビジネスモデルにあります。人口減少・高齢化、そして趣味趣向の多様化によって、百貨店やレジャー施設の需要が低下しています。鉄道を敷いて自分たちの施設への人の流れを作り、自分たちの施設でお金を使ってもらうという構造が成り立たなくなってきているのです。
このように、過去のビジネスモデルから脱却し、少子高齢化社会に向けた新たなビジネスモデルを確立することが大きな課題となっています。
③公営:人口減少による利用者減
すでに国営の鉄道は民営化してJRとなりましたが、地方自治体が運営する公営鉄道は存在しています。
以下に挙げたような鉄道が公営鉄道の代表例です。
私営鉄道は民間の営利組織であるため、どうしても利益を出さなければなりません。そのため、利益につながりやすいエリアの旅客は確保できるものの、そうでないエリアには進出できず、また維持できません。
一方公営鉄道は公費を使って運営できるため、鉄道そのものが赤字でも運営を続けることができ、人々の交通インフラとして存在しつづけることができます。
ただし、元々そういった企業は利益を出しにくいエリアで運営している鉄道であるため、人口減少による利用者の減少に歯止めが効かず、赤字が拡大してしまっていることは大きな課題です。
いくら公費を使えるとはいえ、最低限の利益を出さなければ本数減や設備劣化を招き、最悪の場合、利用者がまだ残っているエリアでも廃線にしなければならない可能性もありますよ。
④第三セクター:私営・公営両方の課題を抱える
第三セクターとは、公私混合の企業形態のことです。これは、国営などの公的な企業を第一セクター、民間企業を第二セクターと定義し、公営でも民間でもない第三の企業形態であることを意味しています。
第三セクター鉄道はさまざまなパターンがあり、公私が共同出資して作られたものや、赤字となった私営ローカル鉄道を公営にしたもの、モノレールなどの新交通システムを運営するために設立されたものなどがあります。
おもな第三セクター鉄道は以下のようなものですが、ローカル線にはもっと多くの第三セクター鉄道が存在していることも覚えておきましょう。
第三セクターは、私営と公営の両方の課題を抱えているといえます。
臨海工業地帯に向けて貨物輸送をおこなうといった目的で作られた鉄道がありますが、そういった鉄道は工業地帯の稼働率の低下によって赤字が膨らんでいます。これはまさに、過去のビジネスモデルからの転換が迫られる私鉄の課題に近いものがあるといえるでしょう。
また、そもそも赤字経営になったローカル線を、交通インフラを維持するために公的に運営を肩代わりすることになったことに端を発する第三セクター鉄道もいくつもあります。そういった路線は地方に多く、ほかの公営鉄道と同様に人口減少による赤字拡大が大きな課題です。
就活生に聞いた! 鉄道業界を志望した理由
鉄道業界に限らず、志望動機のなかでは「なぜこの業界を志望するのか」を伝えるのは重要なことです。
志望理由が真に迫っているほど、採用担当者に志望の本気度が伝わります。本気度が伝わるということは、入社意欲の高さを信じてもらう根拠にもなるため、自分の原体験をもとにした志望動機を伝えることには大きな価値があるのです。
その際に気になるのが、ほかの就活生が鉄道業界を志望するに至った志望動機ではないでしょうか。
今回、鉄道業界を志望する就活生を対象に志望した理由を聞くアンケートをおこないました。ほかの鉄道業界志望者の志望理由を確認しておき、自分が志望動機を書く際の参考にしてみてくださいね。
「鉄道が好き」や「安定している」という志望理由が根強い
鉄道業界を志望する就活生に志望理由のアンケートをおこなったところ、以下のようなコメントが寄せられました。
鉄道業界を志望する就活生は、イメージとして電車が好き、鉄道が好きという印象があるのではないでしょうか。
また、いくつか業界の候補を挙げて調べた結果として鉄道業界が安定しているから志望した、という人もいました。
志望理由に正解や間違いはありませんが、伝え方は工夫したほうがいいという点は覚えておいてください。
好きや憧れだけの志望動機ではほかの就活生のなかに埋もれてしまう、とは最初にお伝えしたとおりです。しかし、ここで注意してほしいのは、好きや憧れ“だけ”だと差別化できないということであって、好きや憧れといった根源から湧き出る気持ちがあるなら、志望動機には記載しておいたほうがいいということです。
また、志望理由を安定しているから、と素直に伝えてしまうと、採用担当者からはあまり良い印象をもたれない可能性があります。
詳細を補強して採用担当者から一目を置かれる志望動機に仕上げていく方法は、ほかの章もあわせて確認してみてくださいね。
志望動機が変わる! 鉄道業界のおもな5つの職種
好きや憧れだけの志望動機から脱却するために、志望職種を絞った具体的な志望動機を作ることをおすすめします。
鉄道が好きだという理由から鉄道業界を志望しているとしても、どんな職種でもいいというわけではありませんよね。
企業側としても、鉄道業界の企業に入社できるならなんでもいい、という応募者がいると「自分が働く姿を想像できていないのではないか」と感じて評価を下げてしまうかもしれません。
この会社のこの職種でなければならない理由を伝えれば、業界研究・企業研究・職種研究ができていることを示すことにもつながりますし、本気度を伝えることもできますよ。
この章でおもな5つの職種について理解を深めれば、志望職種を決める参考にするとともに、志望動機に職種の話を盛り込むことができるようになるでしょう。
①技術・整備
技術・整備は、車両を含めた鉄道に関連する設備の管理や整備を担当し、安全に運行できるようにする仕事です。おもな仕事は上記のとおりです。
さまざまなサービスを提供している鉄道会社ですが、なんといってもその活動の中心は「鉄道の運行」にあります。その鉄道の運行において最も重要である利用者の安全面を司っているため、技術・整備は非常に重要な業務であるといえるでしょう。
一つもミスが許されないため、真面目で几帳面な人が特に向いています。また、車両そのものと深くかかわる機会が多いため、鉄道が好きという人のなかでも「車両」に興味がある人におすすめです。
②サービス提供
サービス提供は、鉄道の実際の運行を担当する職種です。その業務内容はおもに事務、運行、販売に分けることができます。
鉄道を実際に運行する車掌や運転士や、窓口での切符販売などもサービス提供の職種に含まれています。そのほか、災害や事故などの影響によるダイヤ乱れへの対応や駅内でのトラブルへの対処もおこなっており、一般利用者が最も接する機会が多い職種でもあります。
特に向いているのは、サービス精神が豊富で、直接利用者と接する仕事が好きな人やコミュニケーション能力が高い人です。また、トラブル発生時にはほかの鉄道会社と連携を取って振替輸送などをおこなったり、その案内をする必要もあります。そのため、ロジカルかつ冷静にトラブルに対処できる人にもおすすめですよ。
③サービス開発
サービス開発は、鉄道関連のサービスはもちろん、その周辺のさまざまなサービスを開発・提供する職種です。
詳しくは後述しますが、鉄道業界の企業は鉄道の運行だけをおこなっているわけではありません。周辺の大型商業施設やレジャー施設、不動産や観光などのサービスも提供しており、複合的な形で利益を生み出しています。
また当然ながら、鉄道の運行に関して路線の利用者などを分析して改善をおこなう鉄道に関連した開発も担っています。おもな業務は以下のとおりです。
集客でき、かつ利益につながるようなサービスを企画・立案することが重要であるため、企画力や発想力がある人が向いています。加えて、利用者の属性や動向を確認しながら適切なサービスを開発する必要があるため、分析力や洞察力がある人にもおすすめですよ。
④営業・販売促進
営業・販売促進は、自社路線や自社が運営する商業施設、あるいは各種の企画などを魅力的に伝え、売り込む職種です。
前述のように、鉄道会社は鉄道の運行はもちろん、商業施設やレジャー施設などのさまざまなサービスを提供しています。さらには、単発や継続的な企画をおこなうこともあり、それらを認知してもらい、協賛企業や利用者を増やす必要があるのです。
企業向けやカスタマー向けの営業活動が必要となるため、営業・販売促進の職種を目指すなら営業力やコミュニケーション能力は必要不可欠なスキルです。加えて、効果的なPR活動をおこなうためマーケティング関連の知識や分析力、発想力がある人にもおすすめできます。
⑤不動産開発
不動産開発は、自社路線の周辺の土地を開発し、マンションなどの住宅地を作ったりサービス開発と連携して商業施設などを作る職種です。
鉄道各社は、自社路線の敷設とベッドタウンや大型商業施設の開発を連携することで、人の流れも人々が消費をおこなう流れも同時に生み出してきました。これは特に私営鉄道でかつて見られたビジネスモデルです。
まさに大手不動産会社がおこなっていることと同じですが、それを鉄道や人の流れと一緒に考えることができます。開発の規模が大きいため、長期的な事業にじっくりと取り組みたい人やまちづくり・地域活性化に興味がある人におすすめですよ。
志望動機に差が出る! 鉄道業界を志望するなら押さえておくべき3つのポイント
鉄道業界を志望する就活生は、好きだから応募したといった理由が大半となります。なかには、いわゆる記念受験としてとりあえず応募しただけという就活生もいるほどです。
そのため、下記の視点が欠けている志望理由になっていることも多いです。
この章を読めば、上記の不足を補い、志望度が高い本気の志望動機だと思われるような内容にブラッシュアップできるようになるでしょう。
①実は鉄道以外の事業も展開している
前述した通り、鉄道会社だからといって鉄道事業だけをおこなっているわけではありません。
鉄道への好きな気持ちや憧れだけで志望してしまうと、これらの事業理解が疎かになりがちです。本気で志望していることが伝わる志望動機にするには、会社のビジネスを俯瞰してみていることを伝えられるよう、これらの鉄道以外の事業についても知っておきましょう。
もしかすると、志望職種は鉄道に関するものであり、ほかの事業については特に関連性がないと感じるかもしれません。しかし、全体のビジネスモデルや事業形態を踏まえたうえで志望職種が鉄道に関係したものであると伝えることで、ただ「鉄道が好きだから志望しました」と伝えるよりも、説得力を上げることができるようになりますよ。
鉄道事業
鉄道会社が鉄道以外の事業をおこなっていることを知っておくべきとはいえ、大前提として鉄道事業をおこなっていることはしっかりと認識する必要があります。
多くの場合は、旅客によって利用者から運賃を得ることで利益を上げている事業モデルです。
それらに加えて、貨物輸送による利益も覚えておきましょう。
現代でも大規模な陸路での輸送の需要は残っており、JR貨物に代表されるように、鉄道を利用した貨物輸送は利益の柱になりえるのです。
不動産事業
不動産開発と各種施設からの収益は、鉄道企業における利益の大きな柱です。
サービス開発と不動産開発の職種が協力して、自社の鉄道網と関連させた大規模な商流を作っています。
近年、不動産事業を含めたサービス開発は大きな転換点に立っているといえるでしょう。大規模な商業施設やレジャー施設の需要は、人々の趣味の多様化によってかつてほど大きなものではなくなりました。利益が落ち込み、閉店する大型百貨店がニュースになることもあるほどです。
サービス開発、営業・販売促進、不動産開発といった職種を志望するならば、これらの問題とどう向き合うかを考えておき、エントリーシート(ES)や志望動機に盛り込めば目を止めてもらえる可能性が高まるでしょう。
金融・決済事業
意外かもしれませんが、鉄道企業は金融・決済事業にもかかわっています。
鉄道各社が発行しているSuica、ICOCA、PASMOなどの交通系ICカードは銀行口座と直結されているほか、提携している商業施設や決済端末では電子決済も可能です。JRだけでも以下のICカードが発行されているほど乱立しています。
乱立してはいるものの、各社で提携するなどして共通で使用できる場合も多く、金融・決済事業にかかわる人たちが各社で連携していることがうかがえます。
この事業で特に覚えておきたい話題は、2024年現在、物理的なカードのSuicaが世界的な半導体不足で発行停止になっていることです。スマートフォンなどに向けた電子Suicaは発行できるため、それらに関連した話題を覚えておくと面接などで一目を置かれる可能性があります。
観光事業
不動産事業と関連していますが、旅客事業による利益を増やすためにも各地の観光地と提携し、観光地開発もおこなっています。
たとえばJRではウィンタースポーツをPRし、毎年のCMが話題になっていました。
このように遠方の観光地をPRし、そこへの移動手段として自社の路線を使ってもらったりツアーを組んで利用してもらったりすることで、観光地と一緒に需要を増やそうとしているのです。
新型コロナウイルス感染症による需要減少を経験しましたが、それらはすでに払拭しているといえます。またインバウンド需要も増えているため、それらを盛り込んだ話ができると好印象を残せる可能性が高まりますよ。
②鉄道が好きというだけでは企業に刺さりづらい
志望動機を伝える際、好きであることや憧れをもっていることだけでは高評価を受けづらいことはこれまで伝えてきたとおりです。
前提としては、好きな気持ちや憧れを出してはいけないということではなく、むしろそれらが根底にあるなら入れておいたほうが良いでしょう。
しかし、それだけに終始してしまうと、鉄道事業を仕事として考えられておらず、趣味の延長で好きなだけだと判断されてしまいます。
上記が盛り込めているかを、志望動機ができたら確認してみましょう。そして足りなければ補足して入れることで、より熱意が伝わりやすい志望動機になりますよ。
③業界・企業理解の深さが選考通過のカギ
どれだけ鉄道業界を理解できているか、そのなかで志望企業はどんな立ち位置にあると考えているのかを採用担当者は気にしています。
そのため、志望動機にはここまで解説した、以下の理解を感じられるような内容にしましょう。
鉄道業界は、「電車への憧れ」からとりあえず応募するという人も多い業界です。そのため、企業の採用担当者は記念に応募しただけの人と本気で就職を目指している人を選別しなければなりません。
採用担当者が最初に見るのが、応募書類です。応募書類の志望動機のなかに上記の内容が入っていると、少なくとも記念応募しただけとはみられず、しっかりと採用可能性がある候補者としてみてもらえます。
なお、その後の面接の対策について、さらに詳しく知りたい人はこちらの記事もチェックしてみてください。
鉄道業界の志望動機で人事をうならせる業界・企業研究の仕方5選
志望動機のなかには、これを盛り込んでおくと一目を置かれやすく、人事の目に止まりやすいという内容があります。
特に鉄道業界の志望動機においては、鉄道会社のビジネスモデルを深く理解していることは注目してもらえるポイントです。
深くビジネスモデルを理解するためには、当然ながら深い業界研究・企業研究が必要不可欠となります。ここでは、そのための代表的な研究方法を5つ紹介するので、確認してみてくださいね。
考え方としては、以下の4点が重要です。
さっそく具体的な方法について確認していきましょう。
①鉄道業界の業界研究本は必ず目を通す
一つ目に紹介するのは、鉄道業界の業界研究本を確認しておく方法です。
『図解入門業界研究 最新 鉄道業界の動向とカラクリがよーくわかる本』と『図解入門 よくわかる最新鉄道の技術と仕組み』の2冊は、鉄道会社での新人研修で使われることもあるほど詳しい内容が網羅されています。
前者は、鉄道システム全体をビジネスとして理解するために活用できます。
後者は、特に技術面を詳しく解説しているため電気設備などの方式を知ることが可能です。
この2冊を合わせて研究すれば、鉄道業界のビジネスをソフト・ハードの両面から知ることができるようになりますよ。
②鉄道会社グループ全体のビジネスモデルを理解する
2つ目は、鉄道会社グループ全体のビジネスモデルを研究する方法です。鉄道を運行している会社だけをみても、全体のビジネスモデルを知ることはできません。
たとえば、西武鉄道について理解するためには、西武グループ全体をとおした以下の点を知っておく必要があります。
これは西武鉄道のグループだけが特別に多角化経営をしているわけではなく、基本的にJRや私鉄の各社はこの程度には複雑なビジネスモデルをもっています。
各社についてグループ全体のビジネスモデルを知っておき、できるなら各グループの多角化の仕方の違いについても研究しておきましょう。
③新型コロナウイルス感染症以降の注力事業に着目する
新型コロナウイルス感染症が流行した際、外出自粛などによって鉄道の利用は大きく落ち込みました。その際、鉄道各社は経営的に大きな打撃を受けています。
収益の柱となっていた上記の事業がすべて、外出自粛やインバウンド需要の激減による影響を受け、収益が大きく落ち込んだためです。
このとき各社はさまざまな施策を打ち出して対応し、収益構造を変化させてきました。そして、新型コロナウイルス感染症禍からポスト新型コロナウイルス感染症の時代になったといわれる現在、新たな変化への対応が迫られています。
新型コロナウイルス感染症禍を経た各社の変化を確認していくことで、中長期的に収益構造をどのように変えていくのか、その指針を読み取ることができますよ。
④海外に向けた車両の輸出や保守などの展開にも注目する
鉄道各社は海外向けにも車両の輸出・保守事業をおこなっており、その取引金額の規模は全体で数兆円規模にものぼるほどです。JRをはじめとして各社が手掛けており、おもにアジア圏が中心ですが、まれにアメリカやインドなどにも車両の輸出事業をおこなっていますよ。
鉄道には規格があり、レール幅や送電方式などを一度決めたら、なかなか変更できないという特徴があります。現地の規格向けに改修することもありますが、それをおこなわないのであれば、一度取引が成立して規格を日本国内の車両と合わせることができれば、それ以降も長く輸出や保守ができるという事業モデルであることを意味しています。
旧国鉄時代から海外向けの車両輸出は政策として重要視されてきており、現在でも鉄道における主要な技術は日本のものを提供するという戦略が、政府単位で進められています。
鉄道と海外との取引にはこのような関係があり、国策としても推し進められていることを知っておきましょう。入札状況や取引の成立可否はニュースになることも多いため、それらを確認して覚えておくのがおすすめですよ。
⑤アニュアルレポートから経営者の考えや企業のビジョンを読み取る
アニュアルレポートとは上場企業が任意でおこなっている年次報告のことです。ここまで紹介してきたビジネスモデルや鉄道業界の動向を知ったうえで、各社のアニュアルレポートを確認しておきましょう。
これらのレポートのなかでは、経営方針の発表や〇カ年計画などにおける進捗状況なども盛り込まれています。なかには、直接経営者の言葉や発言が、企業のビジョンとして発信されていることもあるほどです。
これらを確認し、今後の経営に関する経営陣の考え方や方向性を知っておきましょう。
志望動機を作るうえで、企業が掲げるミッションやビジョンへの理解は欠かせません。アニュアルレポートまで読み込んだうえで志望動機を作れば、人事をうならせるような志望動機が作れますよ。
就活生に聞いた! 企業理解の深め方
鉄道業界を志望するのであれば、これまでにもお伝えしてきたとおり、好きや憧れだけで終わらず、しっかりと企業研究をした結果を志望動機に盛り込んだほうが良いです。
しかし、実際にどのような方法で企業研究をおこなえばいいかわからずに困っている人もいるかもしれませんね。
志望企業について研究する際に気になるのは、ほかの就活生がどのような方法で企業理解を深めているのかではないでしょうか。ほかの就活生の企業研究方法を知ることで、自分がおこなった研究方法に自信をもつことができるようになりますし、知らない手法であれば試すことができますよね。
今回、就活生に企業理解を深める方法についてアンケートをおこなったので、その結果を確認してみましょう。
「インターネットを活用する」という声が大多数
就活生に企業理解のためにどんなことをしたかのアンケートをおこなったところ、以下のようなコメントが寄せられました。
時間も場所も気にせずおこなえる企業ホームページやインターネット検索を活用した調査が大多数で、説明会やインターンに参加して実際に社員に話を聞いてみる方法が続きます。
やはり最低限、企業ホームページの確認はおこなうべきですが、できるなら実際に足を運んで企業の実態をみてみるのもおすすめです。実際に働いている人の様子をみることで、インターネット上では知ることができなかった、その会社のリアルな雰囲気を知ることができますよ。
ぜひ企業理解を深める際の参考にしてみてくださいね。
なお業界研究については、こちらの記事でもさらに詳しく解説しています。
意欲を伝えきろう! 鉄道業界の志望動機の書き方5ステップ
ここまで解説してきた知識や研究結果を盛り込んだ志望動機を作るために、具体的な方法を5ステップで解説します。
大切になるのは、以下の考え方です。
これから紹介する5ステップを順番に実行していけば、上記の考え方を満たした、人事に注目してもらえるような志望動機を作ることができますよ。
①なぜ鉄道業界を志望するかを整理する
まずは、なぜ鉄道業界を志望するかを整理し、まとめて書き出しましょう。
上記は一例ですが、このようにさまざまな角度から志望する理由を言語化していきます。
この段階では飾ったりせず、自分の本音を書き出しましょう。志望理由を書き出す段階では、好きや憧れだけが理由であっても問題ありません。
もし業界研究の結果、さらに志望度が高くなったのなら、研究結果を盛り込んで理解度の深さを伝えておくのも良いでしょう。
好きや憧れが志望理由なら、あわせてなぜそう感じるに至ったかの過去の経緯を思い出して深掘りし、エピソードも添えておけば今後の選考で役立ちますよ。
②なぜこの職種なのかを整理する
志望する理由がまとまったら、次はなぜその職種を志望するのかを整理しましょう。
多くの場合、鉄道業界の特定の職種を志望するところからスタートしているはずです。鉄道業界にかかわれる職種であればなんでも良いということはなく、あくまでも鉄道業界の特定の職種を志望しているのではないでしょうか。
もしこの時点で志望職種が決まっていなければ、業界研究と職種調査をおこなって志望職種の選定も完了させましょう。
上記に挙げた例のような職種の志望理由があるのではないでしょうか。
この時点でも、まだ好きや憧れだけでも問題ありません。ステップ1の業界の志望動機と同様、好きや憧れが強い場合はそう思うに至ったエピソードも書き出しておきましょう。
また、どうしても職種を選べずに悩んでいる人は、こちらの記事も読んでみてください。
③自分の強みと職種を照らし合わせる
職種の志望動機が定まったら、次はもう少し具体的に、自分がどのようにその職種で働いて活躍できるかをイメージする段階です。
このステップでは、以下の順番で自分の強みと職種で求められる要素を合致させていきましょう。
職種で活躍できそうな要素と自分の強みが合致する個数は多ければ良いですが、一つだけでも問題ありません。また、それらのなかで重点的に説明したい、自分が特に強みとしたい要素も抜き出しておきましょう。
この時、自分の強みが発揮された具体的なエピソードもあわせて書き出すようにしておきます。詳しく説明できる実例があれば、話に説得力をもたせることができますよ。
④自分の強みを発揮して活躍する様子を想像して書き出す
前のステップを経て、志望職種で活躍できそうな要素と、それに合致する自分の強みが整理できているはずです。
このステップでは前述の要素を使って、実際にその職種で働き、活躍している自分の様子を想像して書き出します。
ここで自分の活躍をイメージできるようになっておけば、志望動機作りで役立つのはもちろん、今後の面接などの場での応答にも活用できるため、しっかりとおこなっておきましょう。
調べてもわからなかったことは、面接選考が進んでから逆質問として聞くのもおすすめですよ。
なお、自分の長所の見つけ方についてはこちらの記事でもさらに詳しく解説しています。
⑤志望動機の構成に沿って作成する
これまでのステップで用意してきた内容を使って、基本的な志望動機の構成に沿って、鉄道業界の志望動機を形にしていきます。
ステップ1と2で書き出した鉄道業界と職種の志望理由をさらに絞っていき、ビジネスモデルと志望職種を関連させていくことで志望動機の構成の1と2を作ることができます。
特に構成2の応募した会社でなければならない理由を伝える際に、他社グループとの比較をおこなう必要があり、この場面でビジネスモデルへの深い理解を伝えることが可能ですよ。
構成3と4は、ステップ3と4で挙げた情報をもとにすれば作れます。特に構成4の入社後の活躍では、5年後や10年後の将来的なキャリアアップやキャリアチェンジについても言及し、その際に各社の収益構造の中長期的な変化に関する理解を伝えるようにしましょう。
職種別に紹介! 鉄道業界の志望動機の例文5選
ここからは、これまで伝えてきた内容を盛り込んだ、具体的な志望動機の例を5つ紹介します。
繰り返しにはなりますが、上記を盛り込んだ志望動機にすることで、人事の目に止まり、良い印象を残せる可能性があります。
それぞれ、志望する職種の違いによる例を挙げているので、自分が志望動機を作る際の参考にしてくださいね。
①技術・整備
原体験である電車を好きな気持ちから始まっていますが、それだけに終わらず、車両に関連した海外事業へも言及できています。
好きな気持ちや憧れが強いことも伝わりますが、それだけで終わっていないところがポイントですね。
②サービス提供志望の例文
電車好きと同じくらい運転士や車掌に憧れる人も多いものです。そういった幼少期の憧れを、原体験を通じて伝えている例文ですね。
それだけで終わらずに自分の周囲に鉄道グループの影響があることが調べられており、また経験を通じたスキルで活躍したい旨も伝えている点が高評価を得られそうなポイントです。
③サービス開発志望の例文
鉄道にこだわっているわけではなく、鉄道会社のビジネスモデルに言及できている点が高評価につながりそうなポイントです。
かかわりたい内容も会社の事業と密接にかかわっているので、企業研究もできていることを伝えられていますね。
④営業・販売促進志望の例文
鉄道網をあくまでも旅客手段として切り分けて考えている点で、「電車が好き」という応募者と一線を画していますね。
事業理解や将来的なビジネスモデルの研究がされているだけでなく、海外留学で身に付けたスキルについて言及できている点も高評価を得やすい可能性があります。
⑤不動産開発志望の例文
原体験をもとにした志望動機のため、本気度が伝わりやすい可能性があります。
また、日本全体の将来とそれにかかわる鉄道ビジネスの変化にも言及している点も高評価を得やすいポイントです。
熱意が伝わらない! 鉄道業界の志望動機のNG例文3選
ここからは、陥ってしまいがちな志望動機のNG例を3つ紹介します。
志望動機そのものにはOKやNGはなく、そこにあるのは「なぜ志望したか」の本音だけです。
問題は、伝え方を工夫しなければ思いは伝わらず、本気の熱意も多数の応募者のなかに埋もれてしまうことです。
基本的に、ここまでの章で紹介してきたとおりに志望動機を作っていれば、NGな例にはならないはずです。しかし、つい思いがあふれてしまったり、伝える内容を忘れてしまったりすることで、誰もがNGの志望動機を作ってしまう可能性があることは覚えておいてくださいね。
どのような失敗があるのかを確認しておけば、自分が同じような間違いをしてしまう可能性を減らすことができますよ。
NG例文①鉄道が好きという理由だけ
私が貴社を志望した理由は、当時から憧れだった新幹線が貴社のものだったからです。小さいころから新幹線が大好きで、いつも線路脇から眺めていました。
新幹線の運転士になることが昔からの夢であり、夢をかなえたくて貴社を志望いたしました。
貴社に入社したら、ぜひ〇〇系の新幹線の運転士になりたいと思います。
好きや憧れを入れるのは志望度の高さを伝えるうえでは有効です。しかし、それだけに終始してしまうと、ただの趣味の延長で応募したのではないかと思われてしまいます。
好きな気持ちだけの志望動機は膨大に寄せられるので、そのなかに埋もれてしまうことになりかねません。
好きな気持ちを伝えるだけで終わらず、運転士として活躍することでどうビジネスモデルに貢献するかを企業側の目線も踏まえて記載しましょう。
NG例文②鉄道以外の事業を研究できていない
私が貴社を志望した理由は、鉄道は社会になくてはならないインフラだからです。
通勤や通学にもなくてはならないものですし、高齢化によって車社会の維持にも限界がくると思います。
交通インフラとして社会を支えることで、社会貢献したいと考え、貴社を志望しました。
鉄道が交通インフラを担っているのは間違いないことですが、鉄道以外へ言及できていませんよね。
たとえば鉄道以外のモビリティなどもありますし、鉄道会社のグループが運営している地域密着型のスーパーは生活インフラの一つであるとも捉えることができます。
インフラ事業といえるものは鉄道会社のグループ全体で数多く抱えているにもかかわらず、それらへの言及がないため、企業研究が疎かになっていると判断されてしまうでしょう。
なぜ鉄道というインフラでなければならないのか、そのなかで志望企業を選んだ理由は何かを、事業内容と関連させて記載するようにするとより良くなりますよ。
NG例文③その会社でなければならない理由が弱い
私が貴社を志望した理由は、グループ各社で多角的な経営をしており、非常に安定していると感じたためです。
貴社はデパートや観光事業、宅地開発、さらには貨物輸送事業など、鉄道を軸にした数多くの事業を展開しています。
私の臨機応変な性格を活用してさまざまな事業にかかわり、キャリアチェンジしながら幅広く貢献したいと考えています。
多角的な経営はJRと私営の鉄道会社のほとんどすべてがおこなっています。そのため、このまま志望動機をほかの鉄道会社に使いまわしても成立してしまうような内容です。
その会社でなければならない理由が弱いと感じられるため、人事の目に止まるのは難しいのではないでしょうか。
その鉄道会社だけが手掛けている事業やその会社特有のビジネスモデルの特徴を調べ、その内容を盛り込んで1社だけに特化した内容にしましょう。
鉄道業界の志望動機では業界・職種研究の結果を見せて本気度を伝えよう
多くの人が、人生のうちで一度は電車に乗ったことがあるため、憧れを抱く人もいるのではないでしょうか。
そんな子どもの頃からの夢をかなえるために鉄道業界を志望するのはそれほど珍しいことではありません。しかし、珍しくないからこそ、多くの応募者のなかから選び取ってもらうためには、埋もれないように志望動機を工夫する必要があります。
鉄道業界の分類やビジネスモデル、職種をしっかりと研究し、それらの研究成果がわかるような志望動機にすることが重要です。好きや憧れだけの志望動機では選考通過は難しい、とはお伝えしてきたとおりですが、裏を返せば、多くの応募者は好きや憧れだけの志望動機にとどまっているため、少し工夫するだけで選考通過の可能性が上がります。
これらのポイントを押さえ、本気度が伝わる志望動機を作ってぜひ選考を突破してくださいね。
【鉄道業界の志望理由に関する調査/企業理解の方法に関する調査】
調査方法:ポートが運営する企業口コミサイト「就活会議」会員へのダイレクトメール
調査日:2024年6月18日~7月2日
調査元:「就活の未来」を運営するポート
調査対象者:25卒・26卒の就活会議会員の43人