目次
毎年人気があるビール業界
世の中には様々な業界がある中で、ビール業界は毎年志望する人も多く、人気の業界の一つです。ビール市場は普段から愛飲している人や誰もが知る企業が多く、「有名な商品の開発に携わりたい」「新商品を企画したい」などと考える学生も一定数いることから、憧れの業界とされています。
しかしながら、そのようなイメージで選考に進んでしまうと、入社前の理想と入社後の現実のギャップに苦しんだり、選考で落とされてしまう可能性もあります。
本記事では、ビール業界の基礎知識から各企業の特徴まで解説しています。ビール業界の業務内容や動向などを知ることで、業界研究や企業研究を進めることができ、自分に合っているかどうか判断することができます。
ビール業界の基礎知識から内定を得るためのポイントまで理解し、就職活動を優位に進めましょう。
ビール業界とは
ビール業界とは、ビールを製造・販売する業界を指します。現在ビールは、いわゆるビール、発泡酒、第三のビール、ノンアルコールビールに分類されます。季節を問わない嗜好品として、また、成人をしてからは年齢性別を問わずビールは「一杯目」としてもシェアの広い飲み物です。
居酒屋を始め、アルコールを扱う外食産業はもちろん、ファミリーレストランやカフェにもビールはあり、アルコールといえばまずビールを思い浮かべる人も多いことでしょう。ビール業界を志望するのであれば、業界の動向や最新情報を入手し、企業研究をする必要があります。
またビールは原材料である「麦」を発酵させ、貯酒と呼ばれる「熟成」の工程を行うことで完成します。製品によっては「ホップ」と一緒に発酵させて苦みを与えたり、発酵する手法によって「エール」と「ラガー」と呼ばれる種類に選別したりします。これらビールの詳細については、後ほど解説します。
ビール業界における各業種のビジネスモデル
まず「ビール業界における各業種のビジネスモデル」を解説します。ビール業界における各業種には、「第一次産業」「商社」「原料メーカー」「食品小売業界」「外食業界」があります。
それぞれの役割を知ることで、「ビール業界はどのような役割があるのか」というような大枠を理解することができます。これを理解できていなければ、自分のやりたい仕事ができない可能性もあるため、しっかりとポイントを抑えておきましょう。
第一次産業
「ビール業界における各業種のビジネスモデル」として、1つ目は「第一次産業」があげられます。第一産業とは、農業や漁業など、自然から直接的に富を得る産業になります。
第一次産業では、ビールの原材料である「麦」や「ホップ」を栽培している業種です。麦は、中国やインド、ロシアでの生産が多いです。またホップは、ドイツやアメリカで最も栽培されており、多くの場合それらの国から輸入されています。
これらの商品を商社の食糧部門が輸入し、食品メーカーへ輸送されます。
商社
「ビール業界における各業種のビジネスモデル」として、2つ目は「商社」があげられます。商社は企業同士を結び付けるパイプ役として活躍している企業であり、自社では商品の在庫を抱えていないケースが多いです。自社では商品を作らず、他の企業の商品を別の企業へとつなげていきますので、業種としては卸売業になります。
第一次産業で栽培された麦やホップを、日本へ輸入し原料メーカーに販売しています。原料メーカーと調整し、「とにかく安い食材なのか」「品質に拘っているか」「原産国に拘っているのか」など、様々な要望を聞き入れ、輸入をしています。
「商社」について詳しく説明している記事もあるので、合わせて確認してください。「商社」について詳しくなることで、より優位に就活を進めることができるでしょう。
原料メーカー
「ビール業界における各業種のビジネスモデル」として、3つ目は「原料メーカー」があげられます。ここでいう原料メーカーとは、ビールを製造する企業になります。
商社が仕入れた原材料を加工し、ビールの商品にする業界になります。上記のとおり、原料を発酵させ、貯酒することにより、完成します。
商品化されると、今度はスーパーやコンビニなどの食品小売店や、居酒屋などの飲食店へ販売されます。原料メーカーを通じて、初めてビールが製造されることとなります。
食品小売業界
「ビール業界における各業種のビジネスモデル」として、4つ目は「食品小売業界」があげられます。「小売」とは、生産者や卸売業者から購入した商品を、消費者に販売することを指します。また小売を行う業者のことを、「小売業者」と言います。
総合商社や専門商社のような「卸売業」が、メーカーから商品を仕入れて小売店に卸売りする業態なのに対し、卸売業者から仕入れた商品を、消費者に販売するのが「小売業」になります。
食品小売業界では、原料メーカーによって製造されたビールを、消費者に対して販売することが仕事になります。例えばスーパーやコンビニ、ドラッグストアなどで販売されます。
仕入れた商品を消費者に販売し、仕入価格と販売価格の差額から利益を生み出すことによって、食品小売業界は収益を上げるビジネスモデルとなっています。
「小売業界」について詳しく説明している記事もあるので、合わせて確認してください。「小売業界」について詳しくなることで、より優位に就活を進めることができるでしょう。
外食業界
「ビール業界における各業種のビジネスモデル」として、5つ目は「外食業界」があげられます。外食業界は、食品を調達し加工・調理をした飲食品を提供しています。
このように、飲食品を提供するための店舗を営業する事業のことを「外食」と呼びます。こうした外食業界にも、ビールは販売され、消費者の元へ流通します。
外食業界は多くの人の生活に密着している業界なので、常にビールのニーズがあるともいえます。しかし参入障壁が比較的低いこともあり、競合他社との競争が激しく、とう汰のスピードが速いのも特徴です。
「飲食業界」について詳しく説明している記事もあるので、合わせて確認してください。「飲食業界」について詳しくなることで、より優位に就活を進めることができるでしょう。
ビールメーカーの2つの種類
次に「ビールメーカーの種類」について、解説します。ビールメーカーとしては、「国内大手メーカー」「地ビールメーカー」の2種類があげられます。
それぞれの違いについて知っておかなければ、仮にビールメーカーに就職できたとしても、自分のやりたい仕事ができない可能性も高くなるでしょう。そのためそれぞれの違いを、しっかりと理解しておきましょう。
1.国内大手メーカー
「ビールメーカーの種類」について、1つ目は「国内大手メーカー」があげられます。企業としてはアサヒ、キリン、サントリー、サッポロの4社がシェアの約99%を占めています。
残りの約1%は、沖縄県に本社を構えるオリオンビールが占めている状況です。なお、オリオンビールについては沖縄のビール市場では約半数以上のシェアを誇ると言われています。
国内大手メーカーの特徴としては、様々なジャンルの商品を取り扱っているということです。例えばビールのほかに、発泡酒、新ジャンル、ノンアルコールビールがあります。特に国内大手メーカーであれば、酒税が高く製造コストもかかるビールである「プレミアムビール」や、糖質オフといった健康志向の新ジャンルなど、様々な商品が展開されています。
また国内大手メーカーのビール全体の売上高は、スーパーマーケットなどの小売店で販売される家庭用が約80%、居酒屋など飲食店で販売される業務用が約20%といったシェアになっています。自社の商品を扱ってもらえるよう、営業担当者はこれらの販売店に営業を行います。
また、海外事業においては、買収したメーカーに自社の経営方針やノウハウを伝えたり、経営戦略を打ち出すなど、メーカーの企業価値を高め利益に繋げたり、自社ブランドの商品を現地で販売するなどの展開を行っています。
2.地ビールメーカー
「ビールメーカーの種類」について、2つ目は「地ビールメーカー」があげられます。地ビールメーカーとは、伝統的な製法を用いた生産や、原料に地域特産品を使ったオリジナリティのあるビールを製造するメーカーです。
1994年4月の酒税法改正まで、ビールの年間最低製造数量は2,000キロリットル以上と定められており、ビールの製造は大手メーカーに限られていました。しかし、酒税法改正によってビールの年間最低製造数量が60キロリットルとなり、地ビールメーカーが登場し始めました。
現在全国に存在する地ビールメーカーは、200社以上と言われています。そのため、各社はスーパーやコンビニエンスストアでの販売、飲食店向けに出荷するなどの展開を行っています。
有名な地ビールメーカーとしては、「常陸野ネストビール」が広く知られています。全国初の地ビール醸造所として知られるエチゴビールとして知られており、他社と比較しても販売数が多いメーカーになります。
ビールに関する3つの種類
次に「ビールに関する種類」について、解説します。ビールに関する種類としては、「ビール」「発泡酒」「新ジャンル」の3種類があげられます。
それぞれの違いや各社の主力商品について知っておかなければ、仮にビールメーカーに就職できたとしても、自分のやりたい仕事ができない可能性も高くなるでしょう。そのためそれぞれの違いを、しっかりと理解しておきましょう。
1.ビール
「ビール」の定義
・麦芽比率50%以上であること。
・副原料の重量の合計は、使用麦芽の重量の5%の範囲内であること。
「ビールに関する種類」として、1つ目は「ビール」があげられます。ビールとは、琥珀色をした泡の出るアルコール飲料で、「ビール類」という言葉でくくられることもあります。しかし、この呼び名は、日本の酒税法によって定められた基準があり、主に原材料の種類や使用比率によって分類されています。
一般的には、麦芽の使用が少なくなると「発泡酒」に分類され、国の政令で指定された原料以外を使うと、麦芽を大量に使っていても「発泡酒」の扱いになります。また「新ジャンル」は麦・麦芽以外を原料としたものと、発泡酒にスピリッツのようなアルコール飲料を加えたものとして、大別されています。
またビールは、製造方法により「エール」と「ラガー」に分類することができます。それぞれの詳細は、以下で解説します。
エール
エールビールの特徴
・上面発酵で造られている
・歴史が古い
・発酵温度が高い(20~25℃)
・発酵期間が短い(3~4日)(熟成は2週間)
「ビール」の中でも、造り方によって2種類の商品に分けることができます。まず1つ目は「エール」と呼ばれるビールで、上面発酵という発酵方法により造られたビールになります。
発酵温度としては、ラガービールと比較して20~25度と高めであり、その過程で酵母が上面に移動してくることから、この名で呼ばれています。エールビールはイギリスが発祥です。特徴としては、ホップの香りと苦みが効いた濃厚さです。
エールビールの人気商品
・キリン「クラフトビールシリーズ」
・サントリー「香るエール」
ラガー
ラガービールの特徴
・下面発酵で造られている
・歴史が新しい
・発酵温度が低い(0~15℃)
・発酵期間が長い(7~10日)(熟成は1か月)
「ラガービール」は、下面発酵という発酵方法で醸造されるビールです。下面発酵では、約0~15度の低温で発酵させ、その後に酵母が下に沈んでいきます。この手法は、ビールの製造方法では多く用いられているタイプになります。
ラガータイプのビールには、黄金色で飲み口がキリっとしているのが特徴です。日本の定番ビールとなっており、キリンの「一番搾り」やアサヒの「スーパードライ」、サントリー「ザ・プレミアム・モルツ」のような主力商品が有名です。
ラガービールの人気商品
・キリン「一番搾り」
・サッポロ「黒ラベル」
・アサヒ「スーパードライ」
・サントリー「ザ・プレミアム・モルツ」
2.発泡酒
「発泡酒」の定義
ビールと同じ原材料を発酵させたもので、
・麦芽比率50%未満のもの
・麦芽比率50%以上であっても、ビールに使える原料以外の原料を使用したもの
・麦芽比率50%以上であっても、規定量を超えて副原料を使用したもの
「ビールに関する種類」として、2つ目は「発泡酒」があげられます。「ビール」と「発泡酒」の区別は、日本の法律で決められた定義に基づいています。海外の法律では「ビール」であっても、日本の法律上「発泡酒」となってしまう銘柄があります。
世界的に「ビール」とは、麦芽・ホップ・水に酵母を加えて発酵させたものです。さらに、ビールの味を調整したり、香味に特徴を出すために、副原料が使用されることもあります。この原料こそ、ビールの定義が決まる重要なポイントとなります。
発泡酒はビールとは違い、麦芽の使用量が少ないため、味が薄いと感じる人が多いです。またビールと比較し、価格帯が安いことも特徴的です。
発泡酒の人気商品
・キリン「淡麗シリーズ」
・キリン「本麒麟」
・アサヒ「本生アクアブルー」
・アサヒ「アサヒスタイルフリー」
・アサヒ「アサヒオフ」
・サッポロ「北海道生搾り」
・サントリー「金麦 糖質75% オフ」
3.新ジャンル
「ビールに関する種類」として、3つ目は「新ジャンル」があげられます。新ジャンルのビールは、発泡酒に麦由来のスピリッツを加えたものか、そもそも麦や麦芽以外のものを原料にしているものを指します。
これはあくまでも日本での定義であり、国際的な定めではありません。そのため、海外ではビールとして普及しているものが、日本では新ジャンルとして取り扱われることもあります。
新ジャンルは、2003年ごろから発売されたと言われています。それまでは、ビールよりも安価で購入できる発泡酒が人気を博していまいした。しかし発泡酒は、10年で2度も税率が改訂され、値上げされました。
そのため、発泡酒の税率アップに対抗し、各社価格が安い商品を販売するために、さらに安い税率が適用される「新ジャンル」が開発されました。その最初の商品となったのは、サッポロの「ドラフトワン」になります。
新ジャンルの人気商品
・キリン「本麒麟」
・アサヒ「アサヒ 極上<キレ味>」
・サントリー「金麦〈ゴールド・ラガー〉」
・サッポロ「サッポロ 本格辛口」
・サントリー「マグナムドライ〈本辛口〉」
・キリン「キリン のどごし<生>」
・サントリー「金麦」
・アサヒ「クリア アサヒ」
・サッポロ「サッポロ 麦とホップ」
・アサヒ「クリアアサヒ プライムリッチ」
ビール業界の4つの職種と業務内容
次に「ビール業界の職種と業務内容」について、解説します。ビール業界の職種と業界内容としては、「研究・開発」「製造」「原料調達」「営業」の4種類があげられます。
それぞれの違いについて知っておかなければ、ビール会社に就職しても、自分のやりたい仕事ができない可能性があります。そのためそれぞれの違いを、しっかりと理解しておきましょう。
1.研究・開発
「ビール業界の職種と業務内容」について、1つ目は「研究・開発」があげられます。研究・開発では、ビール商品の原料となる大麦やホップなどの品種を開発したり、製造工程における技術の開発にも携わる職種です。主に大手のビールメーカーにある職種になります。
担当する商品によって仕事が異なり、新商品開発や既存の商品の品質管理など様々です。これらは試飲により、おいしさを追求する仕事になります。そのため、自身の体調にも気を遣う必要がある仕事でもあります。
研究開発では、おいしさだけを求められるわけではありません。価格の低い材料を利用することで、「いかにコストを抑えて製造するかといった」生産効率や収益性も考慮された開発も求められます。
おいしさに加え、安価かつ効率良く生産できるかどうかも考慮して研究しなければいけません。そのため様々なニーズを考えなければいけない、重要なポジションとなっています。
「研究職」について詳しく説明している記事もあるので、合わせて確認してください。「研究職」について詳しくなることで、より優位に就活を進めることができるでしょう。
「開発職」について詳しく説明している記事もあるので、合わせて確認してください。「開発職」について詳しくなることで、より優位に就活を進めることができるでしょう。
2.製造
「ビール業界の職種と業務内容」について、2つ目は「製造」があげられます。研究・開発によって作られた商品を、実際に市場に流通させるために、大量に製造する職種です。製品を作る「素材会社」や、薬を作る「製薬会社」のような、モノを生み出す企業に製造の職種は存在します。
ビールを製造するための「醸造」と呼ばれる過程においては、単に作られたものを大量に製造すれば良いというわけではありません。原料や酵母の品質は様々あるため、様々な商品を製造するために、麦芽やホップなどの原料の調整を行う必要があります。
「製造」について詳しく説明している記事もあるので、合わせて確認してください。「製造」について詳しくなることで、より優位に就活を進めることができるでしょう。
3.原料調達
「ビール業界の職種と業務内容」について、3つ目は「原料調達」があげられます。ビール商品を作る上で必要な原料を集めるために、世界各国に出向いて原材料の買い付けを行う職種です。
ビールを製造するための、大麦やホップの原料買い付けや、品質の安定化を図るため、自社の契約農家に栽培方法を指導する場合もあります。
この職種では、原材料の質の良さを求めることも重要です。一方で、原材料は価格の変動の変動も受けやすいといったコスト面も考慮しながら、商品を調達する必要があります。そのため、高い情報収集能力や語学力を含めたコミュニケーション能力が求められる職種になります。
4.営業
「ビール業界の職種と業務内容」について、4つ目は「営業」があげられます。スーパーやコンビニのような小売店や、居酒屋などの飲食店へ自社の商品を売り込む仕事です。
主に取引先との商談が業務内容になります。またスーパーの売り場に出向き、売り場づくりの提案を行うこともあります。
ビール業界は4〜5社間でシェアを争う競争の激しい業界です。一方で、自身の頑張り次第で売上が数字となって表れ、さらにメーカー全体の業績にもつながるため、やりがいを感じやすい職種であるといえます。
「営業」について詳しく説明している記事もあるので、合わせて確認してください。「営業」について詳しくなることで、より優位に就活を進めることができるでしょう。
ビール業界の動向
次にビール業界の動向について解説します。ビール業界の動向について理解することで、「業界全体ではどんな課題があり、どのような人物を求めているのか」「今後の展望により、就職することでどのようなメリットやデメリットがあるか」がわかります。
そのため、自分にあった企業を探すための業界研究や企業研究を進めることができます。ビール業界を理解するためにも、現状の課題や今後の行方にもしっかり注目しておきましょう。
今までの変革
日本の文献で「ビール」の語が確認できる最古のものは、オランダ通詞(幕府公式通訳官)を勤めた今村市兵衛と名村五兵衛が書き残した「和蘭問答」になります。オランダ人の商館長から献上された「麦酒」「ヒイル」を飲んだ旨が記されており、「殊の外悪しき」「何のあぢはひも無」といったマイナス要素が強い感想が述べられています。
その後、「西洋衣食住」では「ビイール」と表記され、明治初期の新聞から「ビール」の表記となっていきました。その当時から、最も一般的な呼称は「ビール」となりました。
このようにビール業界は西洋との繋がりが大きく、現在でも原料をヨーロッパから輸入しているケースが多くなっています。
近年のトレンド
酒税法の改正
2026年に酒税法が改正されることになっています。これにより、今までビールに課けられていた税率が引き下げられることになります。
すでに2017年6月から、過度の安く売りが規制されるようになり、これまでリーズナブルさを強みとしていた商品の値上がりが進んでいました。そのため安価な商品で勝負していた企業にとっては苦しい状況になったと言えるでしょう。
2018年4月からはビールの定義がそれまでよりも広くなったため、各社は新たなビールの開発に力を入れてきました。今後も2026年まで段階的に酒税法が改正されると予想され、各段階で商品価格がどのように変わっていくのかを踏まえ、新商品の開発を戦略的におこなっていく必要があるでしょう。
そのため、新商品の開発に携わる機会が増えるとも予想されています。
飲食業の倒産やイベント中止により業務用ビールがダメージ
2020年に流行した新型コロナウイルス感染拡大の影響により、多くの飲食業が倒産し、数々のイベント等も中止となりました。そのためビール業界としては、飲食店で提供される業務用ビールやイベントで用いられる業務用ビールを販売することができず、大きく売上を落とすこととなりました。
「帝国データバンクと東京商工リサーチの倒産調査」では、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けた企業の倒産が続いており、2020年9月6日までに業界全体の累計は400件を超えたことが分かりました。
その中でも飲食業が業種別で最多で、今年1~8月までに130件倒産が発生しています。8月時点で累計100件を超えたのは2000年以降で初めてです。まだまだ自粛や営業時間短縮のムードが続くことを見込むと、過去最多を記録した2019年の161件を上回る可能性も大いにあります。
各社のビール全体売上の減損率を表した表
キリンビールが8%減
サントリービールが12%減
サッポロビールが18%減
減損率とは、昨年と比較した減少した売上高の変動割合です。ビール大手各社における2020年5月の販売動向は、「ビール類」のカテゴリーで、キリンビールが8%減、サッポロビールが18%減、サントリーが12%減、数量ベースでの公表をやめたアサヒは金額ベースで22%減でした。
居酒屋での宴会がなくなったことにより、業務用ビールの売上は激減しました。今後も外出自粛や時短営業が続くと見込まれており、業務用ビールを扱う大手のビールメーカーの売上に影響すると見込まれています。
今後の行方
宅飲み増加によるRTD市場の拡大
上記記載の通り、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、業務用ビールの売上が大きく減少しています。しかし一方で、家で飲酒をする「宅飲み」が増加したことにより、RTDの市場が拡大しています。
RTDとは「Ready to drink」の略で、缶ビールのような購入後そのまま飲める飲料を指します。缶ビールの他にも、ハイボールや管酎ハイもそろって伸びており、企業としてはサントリーの角ハイボールやほろよい、キリンの氷結など、このRTD市場を伸ばしていくことに各社力を入れています。
一方で、「業務用ビールがダメだからRTDを強化」という考えで、量販店やコンビニなどの家庭用ビールに力を入れれば良いというわけではありません。家飲みを前提にした製品と業務用の製品とでは、原材料や製法が違っている部分も多いです。
そのため企業としては、どちらも市場も安定的に収益を確保する必要があるでしょう。
ビール業界の業績と待遇
業績規模 3.2兆円
平均年収 1,014万円
平均勤続年数 約17.7年
図では、「業績規模」「平均年収」「平均勤続年数」のカテゴリーのうち、それぞれトップの「卸売」「総合商社」「電力」の業界とビール業界を比較しています。
業界動向リサーチの「ビール業界の現状・動向・ランキング・シェアを研究-業界動向サーチ」によれば、ビール業界は毎年順調に業績を伸ばし続け、現在では業界規模3兆2,000億円となっています。業績の伸び率は昨年と比較し-3.3%であり、150業界143位と低くなっています。
一方平均年収は1,014万円となっており、総合商社と比べると低いものの、サラリーマンの平均年収が400万円程度と言われているため、平均と比べると高めとなっています。
また平均勤続年数は17.7年となっています。国税庁が公表している「平成29年分 民間給与実態統計調査」によれば、全体の平均勤続年数は12.1年であるため、平均より高い勤続年数であることが分かります。
ビール業界の主要企業の売上高ランキングと特徴
ビール業界の売上高ランキング
- 1 サントリーHD1兆0,479億円
- 2キリンHD9,974億円
- 3アサヒグループHD8,868億円
- 4サッポロHD3,244億円
- 5 オリオンビール231億円
ビール業界を志望するのであれば、どの企業を志望するのかを決めていくために、企業ごとの特徴や強みなどを調べる必要があります。
就職する企業と自分の目指すところが違えば将来が全く違うものになりますので、企業正しく知り、就活を進めていきましょう。就活では業界研究だけではなく、企業研究も大切ですので、ビール業界の主要な企業についてもしっかりと、理解を深めていきましょう。
以下の情報は、2020年3月時点での有価証券報告書をもとに作成しています。
1.サントリーHD
企業名:サントリーホールディングス株式会社
代表取締役社長:新浪 剛史
設立年月日:1921年(大正10年)12月1日
売上高:1兆0,479億円
従業員数:40,506人
平均年齢:44.5歳
平均勤続年数:18.9年
平均年収:1,185万円
サントリーホールディングス株式会社は、缶コーヒーなどの飲料、スピリッツ、ビール事業、健康食品などの事業を行っている企業です。飲料では缶コーヒーの「BOSS」「南アルプスの天然水」、スピリッツでは「山崎」「ジンビーム」、そしてビールでは「モルツ」「金麦」が二大ブランドです。食料、レストラン事業ではとんかつのまい泉、ハーゲンダッツが有名です。
サントリーは関西の企業です。「やってみなはれ」と自由な社風で知られています。やりたいことをやることに理解があり、失敗しても再挑戦のチャンスがあるなど、温かい社風で離職率も極めて低いです。
しかし、評価は年功序列のため急激なステップアップなどのきっかけは少ないです。地道にキャリアを積み上げていく人向きの企業だといえるでしょう。
2.キリンHD
企業名:キリンホールディングス株式会社
代表取締役社長:磯崎 功典
設立年月日:1907年(明治40年)2月23日
売上高:9,974億円
従業員数:32,268人
平均年齢:42.5歳
平均勤続年数:15.0年
平均年収:873万円
キリンホールディングス株式会社は、キリンビール、メルシャン、キリンビバレッジなどのグループ会社です。主な事業は飲料展開で、ソフトドリンク、ビール・発泡酒・新ジャンル、ワイン、チューハイ、スピリッツ・リキュール、ウイスキー・ブランデー、果実酒、焼酎、ノンアルコール飲料を展開しています。
総合飲料メーカーとして圧倒的なシェアを誇りますが、ビール事業ではスーパードライで社運をかけて勝負をしてきたアサヒに、大ヒットを許しました。一方で、発泡酒「淡麗」のヒットにより総合的戦略が成功、ビールだけではないブランドの強化もはかっている企業です。
チューハイでは氷結のヒットから「氷結プレミアム」などの商品展開をしています。歴史があり、組織力が強いことからチャレンジ精神が弱いとされていましたが、近年では前出のようにクラフトビールの醸造所を事業化しレストラン事業を展開するなど、新規事業にチャレンジする社風になりつつあります。
3.アサヒグループHD
企業名:アサヒグループホールディングス株式会社
代表取締役社長:小路 明善
設立年月日:1949年(昭和24年)9月1日
売上高:8,868億円
従業員数:30,163人
平均年齢:46.2歳
平均勤続年数:17.0年
平均年収:1,325万円
アサヒグループホールディングス株式会社は、酒類などの飲料他、「ミンティア」「クリーム玄米ブラン」などの菓子・食品、健康食品、和光堂を買収したことにより乳児用ミルクや離乳食などの食品事業も行っている会社です。
2015年から2016年には、海外企業の買収に力を入れ、ヨーロッパを始めオセアニア・東南アジアでの事業を広げています。個性が豊かで、大型吸収合併など、新しい事や珍しい事、考え付かないようなことをよしとする社風です。離職率も低く、給与面も含めて働きやすい環境が整っています。
ビール事業では「スーパードライ」は引き続き堅調で、同社の看板ブランドになっています。ウイスキーでは「ニッカ」がヒットをし、家庭における手軽なウイスキーとしてシェアを広めています。
4.サッポロHD
企業名:サッポロホールディングス株式会社
代表取締役社長:尾賀 真城
設立年月日:1949年 (昭和24年)9月1日
売上高:3,244億円
従業員数:7,743人
平均年齢:46.7歳
平均勤続年数:21.9年
平均年収:811万円
サッポロホールディングス株式会社は、酒類・飲料の他「ライオン」などの外食産業、「恵比寿ガーデンプレイス」「サッポロファクトリー」の複合施設、オフィスビルなどの運営を通じて不動産開発も積極的におこなっている会社です。
主力商品は「エビス」「黒ラベル」で、普通よりも少し贅沢、といった特別感のあるビールを展開しています。
創業100年を超えることから堅実・保守的ではありますが、明るく体育会系で風通しの良い社風です。不動産事業が安定していることもあり、社内はのんびりと明るく、離職率も低い企業です。
ビール業界の中では年間収入は低い方ですが、それでも社宅の手当ては十分あり、旅行援助などの福利厚生もしっかりしています。
5.オリオンビール
企業名:オリオンビール株式会社
代表取締役社長:與那嶺 清
設立年月日:昭和32年5月18日
売上高:231億円
従業員数:300人
平均年齢:40.3歳
平均勤続年数:14.1年
平均年収:577万円
オリオンビールは、沖縄では圧倒的なシェアを誇るビール会社です。
大手4社で国内ビールのシェア99%を分け合い、残りの1%をオリオンビールが占めているという現状ですが、沖縄県内では5割以上のシェアであり、沖縄に行けばオリオンビールが出てくる、というほどです。
主力商品は「オリオンドラフト」で、ドラフトビールとは「非加熱処理ビール」のことです。現在、ビール業界のほとんどの流れが「生ビール(=非加熱処理)」であり、逆に、加熱処理をしているのは「キリンクラシックラガー」くらいになっています。生ビールの「生」はDraftが語源になっています。
沖縄に工場を持ち、沖縄の水で作ったビールは「沖縄の気候に合った爽やかなビール」として愛されています。沖縄の企業らしく、社風はのんびりとしています。
ビール業界について理解し就活に挑もう
ビール業界は今、飽和状態の国内需要に対し、どのようにアプローチをしていくかについて悩み、チャレンジをしている時期だと言えます。そんな時だからこそ、新しい価値観と広い視野を持った新入社員の存在が必要です。
ビール会社は各社とも個性的な風土を持っています。どの会社に行けば自分の力が発揮できるか企業研究を進め、就職活動に役立てましょう。